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難病患者さんとの出会いでがん教育の道筋が見えた
「生きることの授業」を届ける

難病患者さんとの出会いでがん教育の道筋が見えた
「生きることの授業」を届ける

2018年の「新学習指導要領」で、小中高でのがん教育が始まりました。まねきねこでも注目し、2023年第62号((一社)全国がん患者団体連合会参照)でもその活動をレポートしています。今回は、がんサバイバーとして、がん教育の活動を主体に団体を立ち上げ活動するNPO法人 Coco音(ここっと)代表理事の山本美裕紀さんにフォーカスオン。

福岡県で、子どもたちの目線に合わせ、がんだけでなく難病も伝える「生きることの授業」を展開している、そのノウハウや思いを語っていただきました。

NPO法人 Coco音(ここっと)
代表理事 山本 美裕紀 さん


NPO法人Coco音 代表理事。口腔がんサバイバー、進行性感音難聴を人工内耳で克服。2019年NPO法人Coco音設立。看護師、介護福祉士、社会福祉主事など多数の資格を有し、がん教育の進展に取り組んでいる。

 
 
Coco音の団体発足の経緯について教えてください

私は看護学校3年生のときに口腔がんになり、手術を受けました。数年後、進行性感音難聴で失聴しました。看護師になっていましたが、生きる希望を失っていたときに、がん教育を活動のメインとした患者団体に出会いました。初めて授業に参加したときに、子どもたちの感想の「おうちに帰ったらお母さんに検診に行ってと言います」「死にたいと思っても生きていていいんだと思いました」などの言葉に触れ、伝えることで命を救うことができるんだと学んだことが、がん教育をやりたいと思ったきっかけです。

約5年間、その団体のがん教育で小中高200校くらいの授業に行きました。ただ、体力的に厳しさを感じていたときに、がんと難病の交流会があり、再発性多発軟骨炎(RP)患者会代表の永松勝利さんに出会いました。その交流会で、難病患者さんが言った「明日できることは明日する」という言葉がとても印象深かったのです。

私はがんになったことで一日一日、悔いが残らないように生きなければならないと思っていました。でも難病患者さんは、「ずっと病気と付き合っていく。毎日、そんなに一生懸命生きてはいられない」と言われて。そうか、そんなに頑張って生きなくてもいいのだと、とても心が楽になりました。反面、所属する団体のがん教育は、「一日一分一秒、無駄にしないように」と伝える。それはとても大事なことですが、それだけではないと思うようにもなりました。一生懸命生きている子どもにそう伝えるのは苦しいのではないか。もっと視野を広げなければと思い、所属団体を離れ、難病団体の永松さんと協働する方向に進みました。

2018年度の新学習指導要領で、がん教育が必修化され、医師やがん経験者を外部講師として活用する取り組みも始まりました。そこで難病患者さんの話をしてもよいのか文部科学省の確認を取り、問題はないということでした。そのような中で、2019年に小中高生にがん教育をするためのNPO法人Coco音を、がんサバイバーや難病患者さんたちと設立しました。

Coco音のがん教育の特徴について教えてください

子どもたちの興味を引くようにメッセージも添えている 子どもたちの興味を引くようにメッセージも添えている がん教育はさまざまな形がありますが、Coco音の特徴は大きく3つあります。

一つ目は、難病当事者の活躍です。難病の方の柔軟な生き方で子どもたちへのメッセージの幅が広がり、抽象的な命ではなく、具体的な生きる姿を示して生きる力を子どもに与えることができます。

二つ目は、医療者が知識の提供だけではなく、経験を通して疾患当事者の話を上手にアシストし、子どもたちが今から何をすべきかという具体的な行動を考える機会を与えてくれることです。

三つ目は、授業後に生まれた疑問に答えることです。授業後の感想には、宝のような素敵な言葉が欄外にまで書かれています。自身の存在価値、他者意識、チャレンジ精神など。この人生転機の機会に対し動画を作成して、応援メッセージを送っています。中にはこの動画に感想文を送ってくれる学校もあります。

私たちは、「子どもたちが主役」を忘れずに、授業毎に学校に合わせた言葉や表現の配慮を考え、授業の組み立てを皆で行います。

そのためには、語り手全員が養成講座を受講し、「病気を語るのではなく、病気で語る」のモットーを常にもち続けることが大事だと思います。

 
 
語り手さんはどのような 研修を受けているのでしょうか

Coco音の語り手養成講座では、4ステップ(計15時間)の研修を受講いただきます。ステップ1はがんと難病の知識、がん教育の位置づけ、経験の振り返り、ステップ2では配慮やメッセージの抽出、ステップ3では授業を見学、ステップ4ではヒアリングを行い皆で授業内容を検討し、模擬授業を行ってブラッシュアップを重ね、授業にデビューします。中には全4ステップで1年半かかったメンバーもいます。

わかりやすく伝えるために授業の発表スライドにはどのような工夫をしていますか

今の子どもたちは視覚から情報を得ることが多いので、お話に加えて効果的にスライドを使うことも重視しています。まず、恐さを感じさせないように背景の色に黒や白は使いません。また、これは学校の先生から教わったことですが、発達段階の子どもは「丸ゴシック体」が読みやすく感じるそうです。そして私たちが話す言葉は、すべてスライドの中で文字化されていること。さらに写真を効果的に使うとイメージが湧きます。これは聴覚障害の子どもへの配慮でもあります。

今後の抱負をお聞かせください

現在、Coco音のメンバーは約20名。全員が授業に出向くのではなく、病院のがんサロンなどにだけ行く人もいれば、お話を聞くこと(傾聴)をメインにしている人もいます。がんや難病当事者の方も多くいますが、今はがんも治る時代なので、克服すれば活動から離れる人もいます。

自分ががんになったとき病気にどう立ち向かったかという話は、子どもたちに勇気を与えます。また、難病患者さんはずっと病気と付き合っていくので、普段から工夫していること、苦しかったときにどうしたかなどの話は、子どもたちにとって前を向いて生きようという力にもなります。どちらもCoco音にとってはとても大切な存在です。45分の授業では伝えきれないこともあります。疑問があったり、学校の先生に見られたくない感想はCoco音のHPの質問箱に直接メッセージを送れるような仕組みもあります。子どもたちへのきめ細やかなフォローをこれからも大切にし、がん教育を普及、充実させていきたいと思っています。

まねきねこの視点

がん教育でありながら、同時に難病をマッチングさせた方針に新しい視点を感じました。
それぞれに伝えることに違いがありますが、子どもたちは敏感に反応する。その瞬間をキャッチして臨機応変に対応していく、そのノウハウや経験値の積み重ねが、生きる力の授業につながっていくのだと感じました。