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第25回ヘルスケア関連団体ワークショップ 患者・市民参画で何が変わる?
〜これからの医療に求められること〜

第25回ヘルスケア関連団体ワークショップ

患者・市民参画で何が変わる?
〜これからの医療に求められること〜

2025年10月18-19日、ヘルスケア関連団体ネットワーキングの会(VHO-net)の第25回ワークショップが、ファイザー株式会社会議室において、対面方式で開催されました。テーマは「患者・市民参画で何が変わる? 〜これからの医療に求められること〜」。VHO-netにとって新たな取り組みとなる「患者・市民参画」(PPI : Patient and Public Involvement)について、基調講演、分科会、全体討論など多彩なプログラムが展開されました。

患者・市民の貴重な経験を医療の研究開発、医療政策に活かす

イギリスやアメリカでは、PPIは広く認識されており、患者、介護者、市民などが医学研究の計画段階から参加することが奨励され、患者の視点を取り入れた研究が進められています。しかし、残念ながら日本ではPPIの認知度が低く、医療の意思決定に、患者や市民が積極的に関与するための仕組みが、十分に確立されていません。VHO-netが考えるPPIは、患者・市民の経験という貴重な財産を分かち合い、医療の研究や開発の過程、医療政策づくりにも一緒に取り組む活動です。PPIの意義を理解し、ヘルスケア関連団体の活動に組み入れることを目指し、今回のテーマとなりました。

VHO-net代表理事の増田一世さんは開会挨拶で、「皆さんもよくご存じの、『私たち抜きに私たちのことを決めないで(Nothing about us without us)』というフレーズは、国連での障害者権利条約制定過程で、世界中の障がいのある人たちが繰り返し述べてきた言葉です。今回のテーマであるPPIにもつながります。2日間の学びを団体に持ち帰り、患者・市民による薬の開発や医療に参画していくようになればと思っています」と述べました。

続いて、ファイザー株式会社代表取締役社長 五十嵐啓朗氏が来賓の挨拶を述べました。「PPIは、患者さんにとって負担が少ない治験計画の策定、わかりやすい資材の提供、使いやすい医薬品開発など、製薬企業、患者さん双方にとって極めて重要な取り組みです。そこには『著しいテクノロジーの進化、医療の個別化の進展、患者・医療者双方の意識改革』の3つの大切な要素があると思います。ワークショップでの活発な議論が、日本における医療開発の未来への一歩となることを心より期待しています」。

その後、北里大学の前田実花さんによる基調講演、NPO法人PAHの会、村上紀子さんによる患者団体の実践の発表を経て、分科会へ。4つのグループに分かれて2日間にわたる議論が展開されました。

基調講演:臨床研究・臨床試験への患者・市民参画 (Patient and Public Involvement):患者の価値の取り込み

学校法人北里研究所<br>北里大学病院HRP(Human Research Protections)室<br>北里大学薬学部 臨床薬剤疫学教室<br>前田 実花 さん 学校法人北里研究所
北里大学病院HRP(Human Research Protections)室
北里大学薬学部 臨床薬剤疫学教室
前田 実花 さん
臨床研究・臨床試験になぜ、市民、患者の声が必要なのかを理解するために、その仕組みについてお話をします。






1. 臨床研究・臨床試験とは

臨床研究・臨床試験の目的は何か?
患者のアウトカム(outcome)を改善すること
         ⇩
患者が何を必要としているのかを理解し、それに応える。

※アウトカム : 治療結果、治療後の患者の健康状態や快復度(編集部注)

臨床研究・臨床試験と聞いて、皆さんにまず結びつくのが、治験という臨床試験でしょう。患者の何かを改善するために医薬品などを使用する、それによりどういう変化を得るのかがアウトカムです。そのために、臨床研究・臨床試験は段階を踏んでいきます。そのプロセスでは、それぞれの段階で患者の声の取り入れ方が変わってきます。

Step1 「研究の問い」を明確にする
研究によって届けたいもの=アウトカムを考えると、最も重要な最初の段階で、患者の声が必要になります。優れた研究の問いが備える条件とは、実行可能、興味深い、新規性がある、倫理的、患者にとって切実な問題と関連、などが挙げられます。

Step2 注目する曝露・介入のリスクを明確に示す
たとえば医薬品の場合、現時点の臨床的位置づけ、得られている情報(有効性・安全性)を整理すること。患者としてどの程度のリスクなら受け入れられるかという目安をこの段階で考えることが大切です。
※曝露 : 医薬品などに接すること
介入 : 健康に被害が出たり、リスクが出現する可能性がある場合に手段を講じること(編集部注)

Step3 「研究対象者」を明確に定める
臨床研究を行うのは、どういう集団であるかをあらかじめ明確にすること。患者には、自分の望む集団として確かなものを選んでいるかが重視されます。

Step4 「アウトカム」を明確に定める
患者の変化などを評価するアウトカム(評価項目)を具体的に定めること。
かつては、医師の主観を客観的に示すアプローチが標準でしたが、今は、患者自身の価値を中心とした主観的アプローチ、さらにそれを患者自身が直接評価する、患者主体の、患者による直接評価も大事にされるようになっています。

Step5 適切な「研究デザイン」を選択する
臨床研究への参加のしやすさも患者の意見として大事です。具体的には、私の生活であれば月に1回くらい大丈夫、日に3回ならできる、痛いか痛くないのか、どれくらい時間がかかるかも知りたい。そういったことが、いよいよ計画を決める段階では大事になります。

Step6 研究手順・調査項目を具体的に示す
安全性を評価するうえでの、皆さんが感じる痛みや不快感などの自覚症状の評価は、患者と医者によってずれがあります。どちらが本当なのか、それはやはり患者自身の声です。それは患者を代表する声となるので、正しく仕組みをとらえ、責任をもって伝えることが重要です。

Step7 インフォームド・コンセントを受ける手続きを定め、資料を作成する
倫理的な手続きを含め、わかりやすい説明のもと、どのようなことに皆さんが立ち入るのかを、きちんと説明してもらい、理解できない点は伝えてほしいと思います。また、研究者は、患者がどこがわからないのかを聞くことも大事です。
一般市民を対象にした、医学研究用語に対する認知度・理解度調査によると、臨床研究・治験などの用語も、聞いたことはあるというぐらい。介入研究や臨床試験の種類となるとほとんどわからない。そういった実情もふまえて、説明資料をつくらなければなりません。

臨床研究・臨床試験において、図のように0から10のプロセスがありますが、ピンク色や黄色の部分で患者・市民の声を取り込み、研究・試験の目的は何かという問いに答えることで、より良い研究結果を導けるだろうと考えています。将来的には、0〜10のすべての段階で意見をいただくことを目指しています。皆さんも、今はどの段階の意見が求められているかを考えつつ、準備や取り組みをしてほしいと思っています。

2. 臨床研究・臨床試験への患者・市民参画(PPI):患者の価値の取り込み

医薬品規制調和国際会議(ICH)の試み
医薬品規制調和国際会議(ICH)とは、医薬品規制当局と製薬業界の代表者が協働し、医薬品規制に関するガイドラインを科学的・技術的な観点から作成する国際会議です。1990年の創設以来、安全性・有効性および品質の高い医薬品が確実に開発され上市されるよう、より広範な規制調和を世界的に図ることをミッションとしています。

その中の一般的原則という高い次元に、「医薬品開発に際して、患者や患者団体に意見を求めることは、患者の視点を確実に捉えることを促す。患者(又はその介護者/親)の視点は、医薬品開発の全ての段階を通して有意義になり得る。これは最終的に、患者のニーズにより適合した医薬品の開発を支援する。」と、あります。医薬品開発の一つひとつの臨床試験が、この考え方に則りましょうということです。

また、「開かれた対話を支える文化の形成」という文言があります。患者、開発する側、それを承認する側、皆が対話をし、何が必要か、どういう臨床試験が実際的かつ最終的な成果につながるのか、対話をしましょうということです。

日本の試み
ICHはこのような指針を出していますが、残念ながら欧米に比べ日本の試みは遅れています。そんな中、さまざまな機関が、取り組みを進めています。

●独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)
患者参画検討ワーキンググループが2019年に発足。患者の方々との対話を
すすめるガイダンス作成などを行っています。

●国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)
臨床研究等における患者・市民参画に関する動向調査を行い、さらにPPIガイドブックを製作しています。PPIってなに?と言う人も、入門書として使え、活動を始めたい方への指南書になっています。動画も公開されています。

●日本製薬工業協会
新薬の開発側に関しても、患者・市民の声を取り込むことを当然意識しており、ビジョンの中に、「患者と共に」を掲げています。PPI(患者・市民参画)に関する事例集も製作されています。

●一般社団法人 PPI Japan
患者と市民の視点を積極的に反映した優れた治療開発と、安全安心で満足度の高い医療の発展を目指し、活動に取り組んでいます。スローガンは『PPIの5年後の未来!!』、『「対話化」「みえる化」「つづける化」を当たり前に!』とあります。

●一般社団法人 ディー・アイ・エー・ジャパン(DIA Japan)
ペイシェント・エンゲージメントという、PPIのあり方をみんなで考えましょうといった活動も行われています。

私たちのPPIの取り組み(患者団体の実践)

NPO法人PAHの会 村上 紀子さん NPO法人PAHの会 村上 紀子さん 製薬企業との治験に関する意見交換会

肺高血圧症患者団体、PAHの会が経験したPPIの活動について報告します。

肺高血圧症(PH)とは?
進行性の希少難病。肺の血管の圧力が高くなり、その状態が長く続くと、右心室不全となり命を落とすこともある。進行を止める治療法はなく治療薬の開発が待たれている。

PAHの会
1999年設立。会員数119名(2025年3月現在)。活動をサポートする医学顧問の医師が全国に14名。
〈活動内容〉ピアサポート〜会員への情報提供、医療や社会環境の改善及び整備のための行政への働きかけ、新薬の国内への導入・承認活動、海外の患者会や学会(欧米、アジア)との国際協働活動など。 

●製薬会社から、治験に関する意見交換会の依頼を受け参加
〈背景〉A製薬会社は、患者の経験を治験計画に取り入れ、治験に参加する際の負担軽減などを考慮し、より適切な治験が実施できるように取り組んでいる。それにより患者が治験に参加しやすくなり、医薬品開発が速やかに進み、新しい治療の選択肢を提供することを目標としている。
〈方法〉オンライン会議とオンラインアンケートの組み合わせ。 

●参加した患者のコメント&アンケート回答(要約)
・副作用が少なく、扱いやすく、活動に制限のない治療薬を希望
・治療薬を切り替えることでの症状の悪化が不安
・プラセボ使用に関しての不安
・信頼できる治験情報の情報源は、主治医やPAHの専門医が望ましい
・完治する治療薬が近い将来に開発されるかもしれないと希望がもてた
・患者が治験情報を得られる仕組みがほしい

●参加した医師の感想
・患者団体には、治験の準備段階から参画してもらうことが重要
・製薬会社や医師は主要評価項目のデータを重視しがちだが、患者にはQOL向上という別の治療目標がある。検査値がよくなる=治療のゴールではないことが理解できた
・患者による積極的な発信は、治験の活性化、次世代の医療の進展につながる

●製薬会社の振り返り
・図などを使用し、視覚的にもわかりやすい治験同意説明文書を作成する
・副作用など、患者の不安を解消できるように丁寧に説明
・現状では治験情報が患者にタイムリーに届いていないと思われる。患者団体や学会とも協力し、速やかに届くように努めたい

●PHAの会としてのまとめ
・薬剤開発の初期段階から患者の意見を聞いてもらい、治験デザインに反映されることは、「製薬企業と一緒に治療薬をつくった」というポジティブな体験となり、薬剤の信頼度向上にもつながる
・創薬のプロセスについて患者も学ぶ必要がある。それによって、治験は絶対に必要な過程であるとの理解が深まる
・医薬品開発において、使いやすさ、参加しやすい治験の環境整備など、患者の声が反映された薬剤は、口コミでも拡散され、信頼される治療薬となると思う