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このサイトは、ファイザー株式会社が社会貢献活動として発行しております『まねきねこ』の情報誌のウェブ版であり、個別の疾患の相談は受け付けておりません。
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NPO法人 睡眠時無呼吸症候群ネットワーク

NPO法人 睡眠時無呼吸症候群ネットワーク

理事長 中島 慶八郎 氏/副理事長 渡邉 了之 氏/事務局長 伊藤 康子 氏

NPO法人 睡眠時無呼吸症候群ネットワーク(以下、SAS(サス)ネット)は、睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:以下、SAS)の患者のサポートを行う団体です。SASは多くの生活習慣病と関連があり、著しく健康を害するものであるだけでなく、働き盛りに多く発症し、社会的な損失も膨大なものになると考えられている病気です。SASネットは、このSASの社会的影響の重大性に気づき、啓発活動や患者への支援が必要と考えた一般市民や薬剤師、患者によって設立されました。支援者や専門職の視点で、病気や患者にかかわる問題解決に取り組み、企業や行政とも連携して独自のスタイルの活動を展開するSASネットについてご紹介します。

活動の状況
患者数は400万人以上 患者に自覚がないのが特徴のSAS

近年、交通事故の原因となって注目されるようになったSAS(サス)。SASには、何らかの原因により呼吸中枢の働きが低下する「中枢型睡眠時無呼吸症候群」と、舌根(舌の根元)の沈下、肥満、副鼻腔炎などが原因でノドがふさがり、いびきが発生し無呼吸となる「閉塞型睡眠時無呼吸症候群」があり、ほとんどの場合は後者です。睡眠中に頻繁に呼吸が停止するため熟睡できず、日中、突然眠ってしまいます。また交感神経が優位になり、血圧、血糖値も上がりやすくなるため、高血圧や糖尿病、心筋梗塞、脳梗塞などの生活習慣病も悪化させ、未治療の重症者では、9年後の生存率は60パーセント以下というデータもあります。

患者数は400万人以上と言われ、1千万人と推定する説もあるほどです。しかし、慢性的な病気で徐々に症状が進行し、痛みなどの自覚症状がないため、本人が病気に気づかないことも多く、治療を受けている患者は数パーセントと言われています。男性に多いイメージがありますが、更年期以降の50代・60代では女性患者も多く、全体の患者の男女比は6対4と、意外に女性患者が多い病気でもあります。また、SASはCPAP※など適切な治療を受けることによって症状が軽減しますが、専門医や専門施設が少なく、治療を受けにくい患者さんが多いという現状もあります。

SASを知り、危機感をもった市民や専門職が立ち上げたSASネット

SASネットは、健康にかかわる活動をしていた市民や、いびきに効果のあるサプリメント開発を手がけた薬剤師など、SASという病気を放置することは社会的な損失につながると危機感を覚え、社会にメッセージを送りたいと考えたメンバーが集まって立ち上げた団体です。

SASの認識を広め、患者さんが適切な治療を受けられるように、気軽に相談でき、患者同士が意見や情報を交換し、患者の気持ちや悩みを医師に伝える、そんな組織をつくりたいと考えました。そして、SASという病気の特徴から、通常の患者団体の枠を越えて、行政や公的機関、一般市民、医療機関、製薬企業、病気とかかわりの深い運輸業界の企業とも連携して、幅広い啓発活動を推進していこうと考え、NPO法人の認証を受けて活動を始めました。

おもな活動としては、専門家による市民公開講座などのセミナー、SAS治療に携わる医師によるフォーラム、シンポジウムなどのイベントの開催、薬局の薬剤師や栄養士への啓発などを行っています。2013年には専門医の先生を囲む小規模の懇談会も行いました。また、医療施設で検査を受けていない人を対象にパルスオキシメーター(血液中の酸素濃度を測定する機器)によるSASの在宅簡易検査サービスも開始しました。団体の運営は理事を中心としたメンバーが担い、一般会員、賛助会員のほか、問い合わせをした方やイベントに参加したメール会員などにも情報発信を行っています。

職場環境の中や治療のうえでさまざまな課題が山積するSAS

SASによる睡眠障害が原因で起こった大きな交通事故が社会的問題となり、病気に対する認識は高まってきています。治療ガイドラインもでき、治療を受ける患者さんも増加していますが、まだ未治療の患者さんが多いのも現実です。職場で配置換えなどの不利益を被ることを恐れて、病気であることを隠す人も多いようです。2014年6月に施行された改正道路交通法では、SASなど重度の眠気の症状を呈する睡眠障害のある人の運転に関して、雇用者側の責任も問われることになりましたので、この病気に対する経営者の理解や責任意識が高まってくることを期待しています。また、SAS治療は終夜の検査や治療が必要になるなど医療者側にも負担が大きいのに、診療報酬は低いという医療制度上の問題もあり、専門医不足を招いています。治療も進化し、CPAP装置も小さくなり装着感も改善されてきている一方、空気圧などの調整が難しく、治療を受けても効果が実感できずに中断する人が少なくないという課題もあります。

また、私たちSASネットとしては、団体設立当初はSASや睡眠にかかわる企業からの支援を得て活動を行っていましたが、SASの認識が広まるに従って支援してくれる企業が少なくなってきたことが団体運営上の課題となっています。

アンケート調査などによる有効な情報提供により専門医と患者の橋渡しを目指す

「病気が知られてはきたが、治療に結びつかない」という現状を打開していくことが、私たちの大きな課題です。現在のおもな活動の場である関東だけでなく、全国に活動を展開していきたいと考えていますが、拠点がなく、人材や資金も足りないので実現できていません。そこで患者さんに対する啓発活動から、全国の専門医と患者さんの橋渡しをする活動へと軸足を移そうと考えています。

具体的には、まず医師と患者のコミュニケーションの向上を目的に、患者さんから質問や疑問を集め、これらを全国の専門医に答えていただくアンケート調査を企画しています。結果はホームページで公開し、患者さんに病気への理解を深めてもらい、地域の専門医に関する情報を提供するとともに、医療者側にも患者さんがどんな質問や疑問をもっているのかを理解してもらう機会を提供したいと考えています。今後はSASと生活習慣病などとの合併症についてのアンケート調査を行いたいと考えています。また健康などにかかわる活動をしている市民団体などとも連携してSASの啓発活動を展開したいと考え、すでに埼玉などで活動を始めています。

SASは放置すると経済的にも負担が大きく、また家庭や社会においても大きな損失につながる病気ですが、軽症のうちならば比較的容易に治癒できる病気であり、SASを治療することで多くの生活習慣病の予防も期待できます。国や自治体をはじめ、社会的にもセルフメディケーションの機運が高まってきている今こそ、SASについての正確な情報発信を行い、社会的影響の重大さと対応策を啓発して、健康で安心できる社会づくりに貢献していきたいと考えています。

※CPAP(Continuous Positive Airway Pressure)
SASの治療器で、寝ている時に鼻にマスクを装着し、空気を送り込んで気道を押し拡げ、ノドの塞がりを防ぎ、睡眠時無呼吸を予防します。CPAPで送り出す空気圧の調整が重要で、その調整には終夜にわたる観察と熟練を要するため、適切な医療施設を選ぶことが必要です。

組織の概要

■NPO法人 睡眠時無呼吸症候群ネットワーク
■設 立 2008年
■会員数 約1000人

主な活動

■SASおよび睡眠障害に関するセミナーやイベントの開催
■関連する調査、研究
■新薬・治療法・検査方法などの開発協力
■検査の紹介
■情報紙『睡眠ニュースレター』発行
■国内外の情報の収集、発信