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NPO法人 日本脳外傷友の会

NPO法人 日本脳外傷友の会

NPO法人 日本脳外傷友の会 事務局長 東川 悦子 さん

「日本脳外傷友の会」は、高次脳機能障害当事者・家族の団体の全国組織です。高次脳機能障害とは、事故や病気で脳に損傷を受けた人に起こる後遺障害で、記憶障害や注意障害、認知障害などにより日常生活や社会生活への適応が困難になりますが、従来の福祉制度の枠外にあって適切な支援を受けられず、長らく“谷間の障がい”と言われてきました。こうした状況の中で困難に直面する当事者や家族を支えてきた日本脳外傷友の会について、設立当初から理事長を務め、現在は事務局長である東川悦子さんに語っていただきました。

活動の状況
交通事故による脳外傷患者・家族から始まった活動

高次脳機能障害は、交通事故などにより脳に損傷を受け、治療を受けて回復したにもかかわらず、注意力や集中力・記憶力の低下、感情や行動の抑制がきかなくなるなどの精神・心理的症状などが起こるものです。外見や日常会話からは障がいがわからないことが多いために、周囲の理解が得られず、就労を含めた社会生活に重大な影響をもたらします。高度救命救急医療の進歩によって重傷者が救われるようになった一方で、増え続けている後遺障害です。 私の場合、1993年に長男が交通事故に遭い、高次脳機能障害となり就労などの困難に直面しました。当時、交通事故の死傷者が年間100万人と言われていたことから、同様な問題を抱えて苦闘している当事者や家族がいるのではないかと思い、1997年に神奈川県で「脳外傷友の会ナナ」を結成しました。私はもともと障害児教育に携わっていたこともあり、当事者や家族を支えるためには、まず患者団体が必要だと思い至ったのです。

1998年2月に、名古屋で結成されていた「脳外傷友の会みずほ」、大阪の「遷延性意識障害を含む若者と家族の会」との共催で、我が国で初めての「頭部外傷交流シンポジウム」を横浜で開催しました。同年、脳外傷事情の視察のために渡米し、アメリカでは職業リハビリテーションの仕組みや、脳損傷の子どもの復学支援など、当事者の権利を守り社会が受け入れる体制が整備されていることを知りました。そして、患者団体の活動が連邦政府を動かしたことに感銘を受け、私たちも全国組織として活動しようと「日本脳外傷友の会」を結成し、首都圏に近い神奈川県の団体の会長である私が理事長となりました。

病気の後遺症や子どもの高次脳機能障害も対象に活動が広がる

設立当時、高次脳機能障害は医療関係者でも知っている人は少なく、国や自治体による支援もなく、障害者手帳も取得できない、自賠責保険による障害認定の等級も低く抑えられているという時代でした。この状況を打開したいと、積極的に厚生労働省に働きかけをした結果、2001年には全国の医療機関を拠点として5年間にわたる高次脳機能障害支援モデル事業が展開されました。こうした動きに伴い、交通事故の後遺症者だけでなく、脳血管障害や低酸素脳症などによる高次脳機能障害の当事者と家族の団体も続々と誕生しました。

2005年に障害者自立支援法が成立し、高次脳機能障害は支援の対象であると附則に明記されましたが、まだ全国的には周知されず、医療機関で診療を拒否されたり、障害年金申請が却下されたりするという事例も多発していました。私たちは社会的信用度を高めるためにNPO法人認証団体となり、各地域の団体の設立を促し、ネットワークを全国に拡大してきました。また、子どもの高次脳機能障害の問題にも着目し、2008年に「後天性脳損傷の小児を支えるシンポジウム」を横浜で開催し、子どもを対象とするネットワークの活動もサポートしてきました。

期待される当事者自身からの発信

地域の団体では当事者や家族からの相談に応じるほか、相互の親睦、交流、情報の発信、行政への交渉、作業所などの自主運営、就労援助などに取り組んでいます。当会は連合組織として毎年各地で全国大会を開催し、国や行政への働きかけや、ほかの団体や組織とのネットワークづくりに取り組んでいます。また高次脳機能障害への理解を深めるため、書籍や印刷物の制作発行にも力を入れています。さらに国内の多くの障がい者団体との連帯も大切と考え、特定非営利活動法人 日本障害者協議会(以下、JD)にも加盟しています。

高次脳機能障害という言葉が広まり、高次脳機能障害を名称に冠した団体も増えました。当会では「脳外傷友の会」という名称のある団体を正会員団体、そのほかを準会員団体としています。当会も高次脳機能障害という名称に変えた方が良いのではないかという意見もありますが、長年にわたり脳外傷友の会として活動してきた実績もあり、悩ましいところです。また、東京都は独自の福祉制度があり、モデル事業も別だったことから、東京高次脳機能障害協議会が都内の多くの団体を組織しており、必要に応じて連携しています。

当会としての課題は、運営費の確保と活動を担う後継者の育成です。インターネットが普及して個人でも必要な情報が得られるため、患者団体には入会しないという人も多くなっているのです。しかし、同じ障がいのある当事者と家族の団体であるからこそ、支え合うことができ、また解決できることもあり、患者団体の存在はやはり重要だと思います。また「高次脳機能障害基本法」の制定を目指すべきとの声もありますが、マンパワーの不足などを考えると、JDなどと連携して総合的な支援法の充実を目指す方が現実的ではないかと思っています。

明るい展望としては、最近、当事者自身が書籍や講演などを通じて発信したり、アートを発表したりする動きが目立つようになったことが挙げられます。当事者のメッセージには説得力があり、社会に訴えかける力も強いので、私たちも期待しながらサポートしていきたいと思っています。

大震災を機に災害対策にも取り組む

2011年の東日本大震災時に、当事者が避難や生活に困難を来したことを受け、携行用の「あんしんカード」と、「高次脳機能障害・もしものときリーフレット」を作成しました。安全で安心して生活できる社会の再構築とともに、不幸にして事故や病気などさまざまな原因で障がいを負った人のために、より良い支援が行き届く環境を整備することは、長年活動を続けてきた私たちの使命と痛感しています。

私を含め、設立当初から活動してきたメンバーは高齢化が進み、親亡き後の当事者たちの生活も課題です。心温かい専門職をしっかりと養成すること、災害が起きても住んでいられる場所があり、働く場所があり、喜びや生きがいを感じられる社会が実現されることを心から願っています。

「ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために」を合い言葉に、私たちは活動を続けてきました。高次脳機能障害は今もなお社会に広く知られていない障がいであり、必要な支援を受けられず、孤立し苦労している当事者や家族の方々が全国に存在しているはずです。微力ですが、当事者と家族のために、私たちもまだまだ諦めず活動を続けたいと思います。

組織の概要

■NPO法人 日本脳外傷友の会
■設立 2000年(2006年にNPO法人へ移行)
■参加団体 正会員団体21/準会員団体44(2016年現在)
■会員数 約3000人(各団体の会員数総数)

主な活動

■後遺症としての高次脳機能障害に対する知識と情報の提供
■脳障害に対する一般社会の理解を深めるための情報提供
■各関連団体・支援団体等への連絡、助言または援助活動