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希少・難治性疾患の患者とステイクホルダーの横のつながりをつくり、
国際交流や研究開発の促進に向けて活動する「アスリッド」

希少・難治性疾患の患者とステイクホルダーの横のつながりをつくり、国際交流や研究開発の促進に向けて活動する「アスリッド」

ヘルスケア関連団体の特色ある活動や、従来とは異なる新しい取り組みをご紹介するFocus on。 今回は、希少・難治性疾患にかかわる患者や行政関係者・医療者・研究者・企業等のステイクホルダー(関係者)の横のつながりを重視し、どの関係者からも独立した中間組織として全ステイクホルダーに向けたサービスの提供を目指す、NPO法人 ASrid(以下、アスリッド)の活動をご紹介します。

●NPO法人 ASrid 理事長 西村 由希子 さん
●NPO法人 ASrid プロジェクトメンバー 江本 駿 さん

レアディジーズデイ(表1参照)や2012年に開催されたICORD※の東京大会では、西村さんはアスリッドの前身となるNPO法人 知的財産研究推進機構PRIP Tokyo(以下、プリップ)として運営を担われていましたね。まずプリップの成り立ちについて教えてください

※:ICORD:国際希少・難治性疾患創薬会議

私(編注:西村さん)は東京大学先端科学技術研究センターで知的財産の研究に携わり、どのように知的成果を世に出していくかを研究していましたが、大学からの発信だけでは社会を実際に変えることは難しいという活動の限界と、法人同様に責任をとれる外部組織の必要性を感じ、2004年にプリップを立ち上げました。責任にこだわったのは、国立大学法人化(2004年4月)以前に企業との契約が困難な時期を経験したことからです。今では大学もかなり柔軟になってきましたが、当時は社会が必要としている法整備に関する提言などの際にスピード感をもって対応するのが困難だったので、市場に限りなく近い場所にあるNPOとして社会的ニーズに対応し、研究と教育だけではなく自由に社会貢献ができる組織をつくりたいと考えたのです。

当初は医療や希少・難治性疾患の領域とは関係なく、国際的視点およびエビデンスデータに基づいた政策提言と知的成果を用いた社会貢献を目指し、知的財産や著作権など大きな枠組みでの知財や情報に着目していました。その後、知的成果が活かされる市場として、2004年の薬事法改正により承認制度が変わり、環境が激変したオーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)に注目したのです。

そして、希少・難治性疾患分野で研究者のネットワーク構築や患者団体、海外組織と連携した各種社会発信、創薬開発の支援にかかわるようになりました。

2008年にはワシントンで開催されたICORDに参加し、コンテンツの充実度や、患者や行政、企業、研究者、医療者がお互いに尊重し合いながら議論している素晴らしさに圧倒され、この方面で日本が遅れていることを痛感しました。そして、私たちも患者との接点がないことに気づき、一般社団法人 日本難病・疾病団体協議会(以下、JPA)の難病対策勉強会に参加しました。そこでお互いに補完し合える部分があることに気づき、JPAの国際交流部事務局として活動を始めました。また、さまざまな関係者が立場を越えて議論できる場をつくろうと考え、ODOD(表1参照)という会議を開催しています。さらにプリップは2010年からレアディジーズデイの事務局を担い、2012年にはアジアで初めてICORDを開催しました。2013年からはJPAと協同で難治性疾患克服研究事業に取り組み、患者団体向けの研究協力・連携ガイドラインも作成しました。

アスリッド設立には、どのような経緯があったのですか

活動の中で、もっと企業や研究者と密接につながり、創薬開発や研究促進などに柔軟に対応できる体制が必要だと考えるようになりました。一方、プリップとしては、本来は法律系の活動が中心の団体であるのに、希少・難治性疾患関係者からは、当該領域が法人の主軸という印象になっていました。そこで、お互いに活動しやすくするために2014年にプリップから希少・難治性疾患系と情報系両チームがスピンアウトし、協働してアスリッドを設立しました。アスリッド(ASrid)とは、希少・難治性疾患分野における全ステイクホルダーに向けたサービスの提供(Advocacy Service for Rare and Intractable Diseases’ multi-stakeholders in Japan)に由来しています。大学院で公衆衛生を研究する江本もメンバーに入り、エンジニアや国内の識者にアドバイザリーボード(経営諮問委員会)に参加してもらい、幅広い視点をもった組織体制を整備しました。

アスリッドは、希少・難治性疾患を取り巻くさまざまな人々の中で患者と多くのステイクホルダーの横のつながりをつくることを重視し、どの関係者からも独立した中間組織として、全ステイクホルダーに向けたサービスを提供することを目指しています。私たちは、中立ではなくintermediate(中間)、必要とする人に必要なサポートを提供するという方針を大切にしています。日本の患者団体の活動は国内ではさまざまな活動がなされていますが、グローバルな視点で考えると社会への発信のあり方や言葉の壁、支える人材不足などの課題があります。中間組織としてこうした課題解決をサポートし、患者団体がもっと活動できるようにしたいと考えたのです。

アスリッドとして取り組んでいる活動や今後の展望について教えてください

アスリッドでは、研究開発支援や国際連携・協働に関する活動を行っています。また、治験に協力したい患者団体と研究者との間を取りもったり、研究者が利活用できる疫学データに関して患者団体にアドバイスしたりしています。国際会議への参加依頼などを患者団体に取り次ぐこともあり、和訳とともに、主催者の目的や患者団体側のメリット、移動時間など実際に参加する場合の留意点まで丁寧に説明し、参加時にはメンバーが同行して通訳やサポートを行います。

アスリッドの運営資金は、公的な研究費や特定目的付きの寄付、協賛金、企業との活動による収入などが中心です。メンバーは患者団体で活動する人や研究者などで構成され、プロジェクトごとにチームで活動し、ボランティアだけでなく、コアメンバーには報酬を支払うシステムにしています。当初は東大イノベーションオフィスに事務局を置いていましたが、継続性を考えて2016年から学外に本社組織を講えました。

現在、希少・難治性疾患やオーファンドラッグは、私たちの想像以上に社会的に注目される分野となってきています。今後も、この分野の研究の促進や支援、創薬開発、国際協働・連携という取り組みが中心となると思いますが、必要としている人に必要な情報を的確に提供できるように体系化し、対象者を広げるなどそれぞれの活動の質を深めていきたいと考えています。JPAや難病のこども支援全国ネットワークをはじめ、先人が築き上げてきた患者団体の活動を尊重しながら、希少・難治性疾患を取り巻く環境をより良くしていくために必要な活動を模索していきたいと思います。

表1 アスリッドの活動
J-RARE 希少疾患を対象とした患者情報登録サイト(患者レジストリ)です。患者の情報を本人の同意の下で収集・蓄積し、その情報を希少疾患の実態調査や原因究明、新薬開発、福祉の充実など、患者に還元されることのために利活用する専門家へ提供します。
https://j-rare.net/
ODOD
(Open Discussion for Orphan drug Discovery)
希少疾病用医薬品(Orphan drug:OD)関連分野における現状およびさまざまな知識共有の場として、患者と創薬研究者の出会いの場をテーマにワークショップを開催しています。
Rare Disease Day
(レアディジーズデイ)
(RDD:世界希少・難治性疾患の日)
より良い診断や治療による希少・難治性疾患の患者の生活の質(QOL)の向上を目指して、スウェーデンで2008年から始まった活動。2月最終日をRare Disease Dayとして世界各地で啓発イベントが開催されています。日本開催事務局はアスリッド内に設置され、日本国内の公認イベントに対して支援を行っています。
取材を終えて:まねきねこの視点

最近、創薬や治療研究に協力したいという患者団体や、国際的な交流に積極的な団体も増えてきました。患者とステイクホルダーの関係を重視し、医薬品創薬の情報提供や国際交流など、日本の団体において不足しがちな分野のサポートを担うアスリッドの活動は興味深いですね。JPAと連携した取り組みにも期待し、これからの発展に注目していきたいと思います。