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肺がん患者団体の連合組織として
医療者との協働で積極的なアドボカシー活動に取り組む

肺がん患者団体の連合組織として
医療者との協働で積極的なアドボカシー活動に取り組む

社会問題に対処するために、当事者やヘルスケア関連団体などが政府や自治体に働きかけ、政策提言などを行う「アドボカシー活動」が注目されています。そこで、肺がんの患者団体の連合組織を立ち上げ、積極的に活動する「日本肺がん患者連絡会」代表の長谷川一男さんに、アドボカシー活動の現状や展望についてお聞きしました。

日本肺がん患者連絡会 代表
長谷川 一男 さん

まず肺がん患者団体の連合組織である「日本肺がん患者連絡会」について教えてください

私は、2015年4月に「NPO法人 肺がん患者の会 ワンステップ」を立ち上げました。肺がんは予後が悪いため患者団体がほとんどなかったのですが、治療が進展を遂げ、患者の寿命延伸に伴い、各地にいくつかの肺がんの患者団体ができたのです。

しかし、寿命は延びても肺がんは今も罹患率が高く、死亡数はがん種の中で第1位の病気です。しかも医療の進歩とともに新たな課題も浮かび上がっています。その共通の課題の解決に向けて互いに連携し、取り組みを行う必要を感じ、6団体で「日本肺がん患者連絡会(略称JLCA)」を2015年11月に結成しました。現在、11団体が参加しています。

JLCAのミッションは「医療者、患者、社会が協働して医療をより良いものへ」というもの。この協働の理念は、日本肺癌学会からのエールに応えて自然とできました。日本肺癌学会は、J LCAに対して、「ぜひ患者さんの声を聞きたい」「肺がん医療をよくするために協働したい」と声をかけてくれたのです。

その応援と期待に応えるために、共感支援、患者力アップ、アドボカシーの3つの活動を行っています。

共感支援や患者力アップとは具体的にどのような活動なのでしょうか

世界肺癌学会(IASLC)主催の第17 回世界肺癌会議
(WCLC/ IASLC2016)に患者として招待され、発表を行う共感支援としては、厚生労働省のがんサロンの研修プログラムも活用して、各団体で、患者家族が集まるおしゃべり会を開き、不安や戸惑いを気兼ねなく話せる場をつくっています。インターネットでも相談を受け付けています。共感支援は患者団体の活動の基本と考えているので、患者の居場所づくりはこれからも重視し、広めていきたいと思っています。

また肺がん治療は進化・複雑化し、多様な選択肢の中から患者が意思決定して選ぶ時代になっています。患者は情報を得てしっかりと治療内容を理解し、それをもとに医療者とコミュニケーションをとらなければなりません。そのすべてのもとになるのが患者力と考え、患者力アップを目的に、各地で市民公開講座や研修会を開催しています。患者が主体的に参加できるワークショップ形式も取り入れています。

アドボカシー活動としてはどのような取り組みをされていますか

JLCAの発足以降も肺がん治療の進歩は目覚ましいものがあるのですが、一方で医薬品の条件付き早期承認制度、高額薬剤、受動喫煙など、課題も次々と出てきたので、そこへ患者として声を上げてきました。

医薬品の条件付き早期承認制度については「承認申請がされたなら、早く診査を終えて新薬を待つ人へ少しでも早く届くように」と要望書を提出。薬価が高額過ぎるため、社会問題として取り上げられた薬剤については、日本肺癌学会や他の患者団体などの協力も得て、パールリボンキャラバンやがん医療共催セミナー(今こそ患者・医療者が共にルビコン川を渡る時)を開催し、「国民的な議論を深め、効果が期待できる患者には薬がきちんと届くようにしてほしい」と訴えてきました。

2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けた罰則付きの受動喫煙防止法案の問題に関しては、啓発VTRの製作や署名活動を行い、厚生労働大臣にも面会して対策の推進を陳情しています。また私はJLCAの代表として、日本肺癌学会の診療ガイドラインの外部委員を務めています。患者としての声を届けて、「患者のためになるガイドラインを作る」というゴールを実現したいと考えています。

積極的にアドボカシー活動に取り組む原動力について教えてください

日本肺癌学会の応援と海外の患者団体の活動を知ったことが大きいですね。ともに活動していた山岡鉄也さんが、世界肺癌学会主催の2015年世界肺癌会議でアドボカシートラベルアワードを受賞し、2016年には私がペイシェントアドボカシーアワードを受賞して、国際的な学術集会に参加し、海外の患者団体とも交流することができました。

患者が進めてほしいと考える研究に多額の寄付をしたり、希少なタイプの肺がんで患者数の少なさを補うために12ヶ国にまたがる国際的な患者団体を組織したり、素晴らしい活動をしている団体がたくさんあるのです。患者自身が治療をつくっていくことを実感し、自分たちの声は役に立つのではないかと考えるようになりました。

また以前に比べると、患者のアドボカシー活動に対して、政府や医療者も理解し対応してくれる時代になってきていると感じるので、私たちの活動には意義があると自信ももてるようになりました。

今後取り組んでいきたいのはどのような活動ですか

やはり納得して治療を選択し、自分の人生を送ることのできる患者力を養う必要があると考えています。そのために、患者が簡単にアクセスできて、信頼できる情報提供のあり方や、患者自身のリテラシー向上を考えていきたいですね。

また臨床試験の研究デザイン策定にも積極的に参画したいと考えています。そして、最も力を入れていきたいのは受動喫煙の問題です。メイヨークリニック(米ミネソタ州)が進める禁煙プロジェクト「グローバルブリッジ」にも応募し、参加団体に選ばれました。肺がんの高額薬剤に対して議論があることも承知していますが、生命にかかわる病気という大きなハンディを背負った人の治療を制限する前に、まず、がんの原因となる受動喫煙の問題に取り組むべきではないかというのが、私たちの訴えです。

個人でできることは限られていますが、医療者、研究者、行政など別の力をもつ人たちと協働すると、物事が一気に進むことを感じています。他のがんの患者団体や難病の患者団体の方から、学ぶことも少なくありません。

がんと診断された当初、ある看護師さんから「できないことではなく、できることを数えなさい」と言われたのが私の活動の原点です。患者団体の活動も、アドボカシー活動も、多くの人と協働しながら、できることを精一杯少しずつでも進めていきたいと考えています。