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いつ、被災者になるかわからないそのために準備をしよう
災害による、停電時の電源確保活動を推進

いつ、被災者になるかわからない そのために準備をしよう
災害による、停電時の電源確保活動を推進

昨年、2018年は、西日本豪雨、北海道胆振(いぶり)東部地震、相次ぐ大型台風の襲来、それらに伴う災害に翻弄された1年でもありました。特に沖縄県では台風に備えての防災対策は必須です。認定NPO法人 アンビシャスでは、県からの委託を受け、停電時の人工呼吸器や吸引器などの電源確保事業に取り組んでいます。沖縄本島、宮古島や石垣島などの先島諸島の離島に出向き、発電機や蓄電器(バッテリー)の普及に尽力されている、アンビシャスの副理事長、照喜名通さんにお話を伺いました。

認定NPO法人 アンビシャス 副理事長
照喜名 通 さん

電源確保事業は全国に先駆けた取り組みと聞きました。そのきっかけについて教えてください

この活動の発端は、2011年に起きた東日本大震災でした。福島第一原子力発電所が停止し、東京都は、計画停電や輪番停電を実施しました。都は、人工呼吸器を必要とする難病患者への対策として、発電機とバッテリーを災害拠点病院に貸与する事業を開始。患者は保健所に申請し、病院に機器を取りに行くという方式を取りました。くしくも沖縄県ではその年、台風の上陸が多く、人工呼吸器が命の存続を左右する筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者や、小児慢性疾患の子どもたちの多くは病院に避難しました。ところが、ベッド数が足りないなどの理由からロビーなどで待機する状態となり、それがメディアで報道されたことで、県民が災害時の電源確保の重要性を共有することになりました。
 当時、沖縄県は東京都と同じ方式で事業を実施しようとしましたが、病院側での貸与された機器の管理、責任問題などの理由で頓挫してしまいました。その案件を県がアンビシャスに依頼してきたのです。理事会で検討し、2013年から「沖縄県難病患者(児)人工呼吸器用外部バッテリー等(発電機器含む)貸与事業」を受託し、発電機と人工呼吸器の純正バッテリーを無償で貸与する事業を開始。東京都方式のように病院に機器を取りに行くのではなく、保健所を通して申請すれば、アンビシャスがそれを患者の家に届けるというシステムが特徴でした。

貸与するだけではなく、使用方法やメンテナンスなどのノウハウも必要ですね

アンビシャスが独自に作成した、停電時の電源確保用マニュアル アンビシャスが独自に作成した、停電時の電源確保用マニュアル 申請者には、なぜ自分で備える自助が必要なのか、そこから話を始めます。福祉避難所には電源数に余裕がないこと、災害拠点病院では電源確保者よりも傷病者が優先されること、沖縄県では他県からの援助を待つのに2〜3日は長く見積もらなければいけないなど、公助を万全と思わないことなどを説明します。次に、災害時にはどの機器を優先して使いたいのかを尋ねます。発電機の容量は850W、1600Wなどいろいろとあります。人工呼吸器、吸引・吸入器、酸素濃縮器、電動ベッドなどの医療福祉機器、体温調節ができない小児にとってはエアコンが必須です。各家庭でどれだけの電気が必要なのか、その消費電力をきめ細かく計測していきます。

私たちが提供している発電機はガスとガソリンでの火力発電です。しかし、人工呼吸器は生命に直結するため、電源は家庭用コンセント以外を使用してはいけないという法律があります。発電機から直接つなぐのではなく、コンセントを介してバッテリーに常時、充電しなければいけません。ところが昨今のバッテリーの主流であるリチウムイオン電池は、使用しなければ放電し、空のまま放置すると使用できなくなるので、3ヶ月に一度の充電が必要であることを説明します。私たちは、現場でさまざまな質問を受ける中で、ノウハウを蓄積してきました。それをマニュアルにし、わかりやすく解説していますが、やはり機器類が苦手な人もいますから、時間をかけてお話しするようにしています。
 沖縄県からは、機器の貸与に関する補助金の給付だけで、使用方法の説明やメンテナンスなどのフォローは自主事業として無償で行い、離島への交通費などもアンビシャスの事業費で賄っています。

県内の在宅難病の方々の電源確保への意識は高まってきていると思いますか

台風は今やかなりの精度で予測できるようになりました。そのため、暴風雨が強まる前に、避難入院するという手段が取られてきました。実情としては「うちは大丈夫」「今回も大丈夫だろう」という楽観主義で切り抜けてきた人が多いと思います。昨年9月、数年ぶりに台風24号が沖縄本島を直撃し、その影響で最大25万戸が停電、復旧が遅れた地域もありました。同じ月に北海道でも大きな地震がありブラックアウトという大停電が起こりました。これらのことで県内の電源確保への関心が高まったと期待したいですね。
 ただ、発電機やバッテリーを必要とする人々は疾患や家庭によってさまざまです。たとえばALSなどでは老老介護の場合もあります。小児慢性疾患の場合は若い親で、仕事をもっている。万が一に備えるよりは、万が一には救急搬送に頼ろうという考えの人もいます。貸与事業は申請主義なので、本人や家族が必要でないと思えば、それまでです。義務もないので、その点については、アンビシャスもとても慎重に説明しています。

今後の課題と抱負について教えてください

日本各地で、大きな災害が相次いでいます。自分がいつ被災者になっても不思議ではない状態です。だからこそ今、電源確保の普及をしていく時期だと思います。沖縄県では2018年9月30日時点で、成人に対しては59件、小児に対しては48件、 発電機・バッテリーを貸与しています。昨年は小児慢性疾患の子どもの親からの依頼が大きく増えました。「障がいのある子どものおかげで発電機を準備していたら、停電になっても家族みんなが無事にしのぐことができた」と言えるようにしましょうと伝えています。訪問をきっかけに、いろいろな災害を想定しながら備蓄・防災マニアになっていく人もいて、SNSを使い防災情報の交換もしています。患者・家族も常に防災意識をもつことで、日常的にも外出上手になり、それが災害時の避難上手にもつながると思います。さまざまな活動を通して、やりがいを実感しています。

まねきねこの視点 まねきねこの視点 今回の電源確保活動は、電気が生命にかかわるエネルギーであること、さらに「誰もが被災者になる」という自覚をもつことの大切さを強く感じました。東日本大震災、熊本地震などの災害でヘルスケア関連団体がどう対応したか、また地域学習会で取り上げる災害対策など、まねきねこでは随時取材を行い、お伝えしてまいります。