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患者と研究者の協働を目指す「患者・市民参画(PPI)ガイドブック」
医学研究を支援するAMEDが公開医学研究を支援するAMEDが公開

患者と研究者の協働を目指す「患者・市民参画(PPI)ガイドブック」
医学研究を支援するAMEDが公開医学研究を支援するAMEDが公開

2019年4月、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)から、「患者・市民参画(PPI)ガイドブック」が発行・公開されました。日本における医学研究・臨床試験等に患者や市民の声を反映する取り組みについて、初めて公的な機関による基本的な考え方が示されたことになります。そこで、作成にかかわったAMEDの泉 陽子さん、勝井 恵子さんに、ガイドブックがつくられた背景や今後の展望についてお聞きしました。

国立研究開発法人 日本医療研究開発機構
泉 陽子 さん

基盤研究事業部(AMED患者・市民参画担当) 課長代理
勝井 恵子 さん

患者・市民参画への取り組みが始まった 背景やきっかけを教えてください

国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(以下、AMED)は、医療分野の研究成果を速やかに実用化し、患者さんに届けることを目指して2015年に設立されました。産学官をはじめ、さまざまな情報や人をつないで連携を進めながら研究開発を加速し、成果をより大きなものとすることを使命としています。
今回の取り組みの背景には、近年、「患者・市民参画(Patient and Public Involvement:以下、「PPI」、「患者協働」「患者中心」といった考え方に 基づき、患者さんなど一般の立場の方が医療研究開発のさまざまな場面に参画することが求められるようになってきたことがあります。2014年に健康・医療戦略推進本部が決定した「医療分野研究開発推進計画」には「臨床研究及び治験の実施に当たっては、被験者や患者との連携を図る」とされていたのですが、2017年2月に計画の一部変更があり、「臨床研究及び治験の実施に当たっては、その立案段階から被験者や患者の参画を促進する」という文言となりました。この計画変更をふまえ、資金配分機関であるAMEDとしてもPPIについて検討する必要があると考え、「臨床研究等における患者・市民参画に関する動向調査」を実施したのです。

同調査では、どのような調査や議論が行われたのでしょうか

「患者・市民参画」という言葉には幅広い意味がありますので、AMEDが関係する分野に限定し、海外や日本における医学研究・臨床試験に関するPPIの実態や動向、参考にすべき取り組みなどの調査を実施しました。また、調査を進めるにあたって同調査委員会の意見を聞きながら、PPIのあり方や進め方に関する整理を行いました。この調査を通じて、AMEDにおける、医学研究・臨床試験でのPPIの基本的な考え方を創出し、PPIとは何かという基本的なことを学びたい、PPIに取り組みたいという研究者や患者・市民に役立つガイドブックも作成しました。ガイドブック原案は同調査委員会の委員によるもので、同委員会にてブラッシュアップを重ねました。

ガイドブックには研究者や患者さんの声も盛り込まれているのが印象的ですね

PPIガイドブック PPIガイドブック 研究者を主な読者と想定しつつ、参画される患者さんや市民の方にも参考になるようにと考えています。そのために、委員会での議論とは別に意見交換の機会をもち、研究者や関連団体の方などに原案を読んでもらい、さまざまな意見をお聞きしました。
ガイドブックには、そうした声も集約して組み入れ、また具体的な事例なども紹介しています。必要なところ、興味のあるところから読んでもらえるように、どこから読んでも理解できるような構成になるよう工夫されています。
完成したガイドブックは、必要とする方が誰でも手軽に活用できるように、全ページをAMEDの
サイトで公開しています。視覚障害の方に配慮したテキスト版も作成中です。またPPIという言葉を研究者に浸透させることも念頭に、AMEDの公募要項にPPIを推進する旨を記載したり、事業によってはPPIに関する取り組みについての任意記載欄を設けたりしました、同時に、公募時期に合わせてPPIについて簡単に紹介するリーフレットも作成しました。

〜患者・市民参画(PPI)ガイドブックより〜
AMED における研究への患者・市民参画(PPI)に 関する基本的な考え方
■定 義
AMEDでいう「医学研究・臨床試験における患者・市民参画」とは、医学研究・臨床試験プロセスの一環として、研究者が患者・市民※の知見を参考にすること
※ 患者・市民:患者、家族、元患者(サバイバー)、未来の患者を想定

■理念
● 患者等にとってより役に立つ研究成果を創出する
● 医学研究・臨床試験の円滑な実施を実現する
● 被験者保護に資する(リスクを低減する)

■意 義
< 研究者にとって >
● 研究者が研究開発を進める上での新たな視点と価値を獲得することができる
● 患者の不安・疑問点を解消し、医学研究・臨床試験の理解を促進することができる
< 患者・市民にとって >
● 医学研究・臨床試験の参加者にとっての利便性を向上、理解を促進させることができる
● 患者・市民にとって医学研究・臨床試験が身近になり、医療に対する関心を高めることができる

■ガイドブック監修
「臨床研究等における患者・市民参画に関する動向調査」委員会
委員長:藤原康弘 国立がん研究センター
副委員長:武藤香織 東京大学委員
天野慎介(全国がん患者団体連合会) / 神山和彦日本製薬工業協会) / 桜井なおみ(全国がん患者団体連合会) / 中野壮陛(公益財団法人医療機器センター) / 東島仁(山口大学) / 福島慎吾(難病のこども支援全国ネットワー) / 宮川義隆(埼玉医科大学病院) / 森幸子(日本難病・疾病団体協議会) / 森下典子(国立病院機構本部) / 山口育子(ささえあい医療人権センターCOML)

原案作成:武藤香織(東京大学) / 東島仁(山口大学) / 藤澤空見子(東京大学)
※敬称略

取り組みの中での 印象的な議論や気づきがあれば教えてください

同調査委員会は、さまざまな立場の方がPPIについて初めて本格的に議論する場となり、各方面から大きな期待を寄せられていることを感じました。また参画する患者さん像について、医療や医学研究、法制度等に精通した専門家に近い方か、それとも自分の病気をきっかけに少し幅広い視点をもつようになった方でいいのかという興味深い議論もありました。PPIを検討するにあたり、こうした具体的な議論を深める機会が得られたことは良かったと思っています。研究者から寄せられた事例の中に、PPIの萌芽ともいうべき取り組みが確認できたことも収穫でした。
一方、本当に大変な状況にある患者さんは声を上げられませんし、急性疾患や生活習慣病のような患者さんの声もとらえにくいことを痛感しました。こうした課題もふまえながら、PPIの取り組みを一歩ずつ、着実に進めて行けたらと思っています。

今後の展望について聞かせてください

今回の調査やガイドブックの作成は、多様な立場の方の貴重な声や事例とともに、PPIの基本的な要素を網羅したと考えていますが、実際に取り組みが始まると新たな課題も出てくると思います。そうした課題を解決するノウハウを組み込むなど、PPIの発展とともにガイドブックも進化させていきたいと考えています。
患者さんの声を聞きたいという研究者は多く、患者さんの声を取り入れることで、医学研究はより充実したものとなります。このガイドブックが、患者や市民の皆さんの医療に対する関心を高め、医学研究に対する理解を深める契機や出発点になるように、またAMEDが支援する研究の質を高め、使命を果たすための第一歩となるようにしたいと考えています。
PPIがかかわるフィールドはとても広く、私たちAMEDが取り組むのは、その中の医学研究・臨床試験というごく一部に過ぎません。このガイドブックをきっかけに、さまざまな分野で同じような取り組みが行われて日本のPPIが発展し、より良い医療の実現につながってほしいと願っています。

まねきねこの目 まねきねこの目 ガイドブックの中には、患者・市民向けの勉強の場として、VHO-netも紹介されています(P57)。研究者だけでなく、多くのヘルスケア関連団体の皆さんがこのガイドブックを通じてPPIを知り、活動に生かすことにより、日本でのPPIが成長していくのではないかと感じました。