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ヘルスケア関連団体と医療者団体が協働し
オスラー病の疾患啓発や診断・治療の向上に取り組む

ヘルスケア関連団体と医療者団体が協働し
オスラー病の疾患啓発や診断・治療の向上に取り組む

オスラー病は、全身の血管に異常がおこる遺伝性の難病です。専門医や疾患を認知している医師が少ない中、一人の医師の提案で患者団体が発足。その後、オスラー病にかかわる医療者主体の団体、HHTJAPAN(日本HHT研究会)も設立されました。医療者と患者双方の団体が協力関係を築き、情報交換や疾患啓発の活動を行い、患者団体へのアンケート結果が学会誌の論文にも掲載されました。医師と患者による協働での取り組みについて、NPO法人 日本オスラー病患者会の理事長、村上匡寛さんにお話を伺いました。

NPO法人 日本オスラー病患者会 理事長
村上 匡寛 さん

まず、オスラー病の疾患について教えてください

オスラー病(遺伝性出血性末梢血管拡張症)は、全身の血管に異常(血管奇形)がおこり、出血症状があらわれる遺伝性の指定難病です。日本での患者数は約1万人と推測されています。主な症状は、繰り返す鼻出血、消化管や口腔内出血、全身の倦怠感や痙攣などさまざまです。重篤な合併症として肺、脳などの動静脈奇形の破裂、脳梗塞、脳出血、脳膿瘍、稀に肺高血圧症など、致命的な経過となることもあります。子どもから成人まで発症し、繰り返す鼻出血は特に多い症状です。私も3歳頃から頻繁に鼻血を出していましたが、父親にも同じ症状があり深刻には考えていませんでした。30代で肺血管の奇形がわかり、51歳で脳梗塞を発症しました。そのときに、自分のこれまでの症状をインターネットで検索すると、大阪市立総合医療センター脳血管内治療科の小宮山雅樹先生のホームページを見つけました。先生は日本で唯一(当時)、オスラー病外来を行っており、すぐに受診するとオスラー病と診断され、肺動静脈瘻(肺の動脈と静脈がつながる奇形)を治療しました。そんなある日、小宮山先生から、「村上さん、患者会をつくりませんか」と言われたのです。

先生から渡された資料や論文を読み、2012年にオスラー病患者会のホームページを立ち上げました。すると全国から反響があり、「私も同じ症状だ」「医者から不治の病と言われた」などの声が届きました。先生とともに大阪で患者の会を呼びかけると、これも全国から100人近くが集まり、困っている人が相当数いるのだと実感しました。

患者団体発足の2年後には、オスラー病に関心のある医療者主体の団体も設立されましたね

小宮山先生が呼びかけ、2013年にオスラー病の診断・治療の向上と患者支援のために、医療者主体の団体、HHT※JAPAN(日本HHT研究会)が設立されました。先生の主旨に全国から200名を超える医師が賛同しました。鼻腔、口腔、消化管、脳、肺、肝臓など症状が多様で診断がつきにくく、受診が多科にわたり、逆に責任診療科が不明確になることもあり、なんとかしなければという医師も多かったようです。これを機に、日本オスラー病患者会とHHT JAPANとの連携した活動が本格的に始まりました。

遺伝病であるため、デリケートな問題もあります。家族に患者団体への入会を反対されたり、差別や偏見を受けるので遺伝のことは公表しないでくれという意見もあります。しかし、オスラー病は今は根治できない疾患ですが、早期に適切な検査や治療を受けることで重篤な症状を回避することができるのです。そのために、私たちもHHT JAPANも、広く社会に発信し啓発していく意義や義務があるという方針です。

※HHT:オスラー病の英語名の略

HHT JAPANとの協働で、具体的にどのような活動を行っていますか

口腔外科の医師に治療時の考慮を伝えるシートや、<br>患者が記入し医師に提出する<br>「オスラー病又はその疑いに関する情報提供シート」 口腔外科の医師に治療時の考慮を伝えるシートや、
患者が記入し医師に提出する
「オスラー病又はその疑いに関する情報提供シート」
オスラー病は大学病院に行っても、受診科がわからずほぼ迷子状態になったり、また未診断の隠れオスラー病の人も多いと考えられます。そのために、診断基準や症状、合併症などについてイラストや写真を使った、一般の人にもわかりやすいリーフレットを作成しました。患者が事前に症状を書き込み、医師に提出する『オスラー病又はその疑いに関する情報提供シート』や、医師に治
療時の考慮を伝えるシートなども作成しています。

18年には、オスラー病と診断された人や家族が抱くと思われる疑問や心配事に、それぞれの専門医が応える『HHT Q&A50』を発行。質問事項の作成や回答文も、患者会役員と医師が何度も検討を重ねました。

これらの制作物は医師会や行政機関、医療機関などに配布しています。うちの会員には、Q&A集や資料をまず読み、しっかり勉強してから病院に行くことをすすめます。自身や家族の生命にもかかわることですから医師任せにはせず、患者も学ばなければなりません。双方のホームページには、診療・治療が可能な全国47の医療施設情報(2019年8月現在)を掲載しています。医師名も明記し、オスラー病に詳しい医師から各診療科にコーディネートしていただけるようになっています。これもHHT JAPANの協力なしではありえません。19年にはHHT JAPANに所属する医師から、鼻出血に関するアンケート依頼があり、患者会会員にウェブと用紙送付、双方で実施。その調査結果が日本鼻科学会会誌に論文として掲載されました。

患者団体と医療者が良好な関係を築いていくコツのようなものはありますか。
また今後の抱負についてお聞かせください

オスラー病について<br>わかりやすく解説したリーフレット オスラー病について
わかりやすく解説したリーフレット
お互いにフラットでオープンな関係でいましょうと話し合っています。患者は専門医の世話になり、医師にとって患者は先生である。そういう理念を共有しています。情報を提供し合い、ウィンウィンの関係を築く。医師がつくるのが難しい冊子を患者団体が作成し、患者団体が得られない世界的な医療情報などは医師が提供してくれる。オスラー病の診断・治療の向上という、明確な目標と使命が一致していることが重要で、それが活動の原点でありエネルギーになっていると思います。

今後の抱負としては、総合診療科に作成したリーフレットやQ&A集、解説DVDビデオを配置していく事業を考えています。総合診療科は、紹介状がない、どの診療科を受診すればいいのかわからない、あるいは救急車で搬送された人などが受診する外来です。社会はもちろん
医師にも認知度の低いオスラー病患者にとって、医療機関の最初の入口にもなることも多く、そこをしっかりとカバーしていきたいと考えています。

取材を終えて

まねきねこの視点
ヘルスケア関連団体と医療関係者の連携や協働は、これまでにも数多く取材しご紹介してきました。今回の日本オスラー病患者会とHHT JAPANでは、多岐にわたる症状や診断のつきにくさ、専門医が少ないという厳しい現状を改善していこうという、ビジョンやミッションが明確で双方一致していること。それが活動を推進する重要な柱であることを強く感じました。