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会の運営に役立つハウツー集 行政との対立から、協議へ
対話で信頼関係を育みながら、働きかけていこう

HOW TO/第5回
会の運営に役立つハウツー集 行政との対立から、協議へ 対話で信頼関係を育みながら、働きかけていこう

NPO難病のこども支援 全国ネットワーク 専務理事 小林信秋

ヘルスケア関連団体にとって重要な活動テーマとなるのが行政への働きかけです。しかし、患者や家族側と行政は対立関係になりやすく、陳情や請願など行政への働きかけは難しいこととされています。

そこで今号の知恵の泉では、小児慢性特定疾患治療研究事業の法制化にかかわった「難病のこども支援 全国ネットワーク」小林信秋さんに、行政にどのように働きかけていったのか、その経緯や問題点を伺いました。

数年後には補助金が消滅?! 難問に直面した小児慢性特定疾患治療研究事業

研究のための治療という位置づけで実施されてきた小児慢性特定疾患治療研究事業が、改正児童福祉法のもとで法制化されて本年4月1日から施行されました。

そもそも小児慢性特定疾患治療研究事業とは、小児慢性疾患のうち、先天性の心臓病、小児に特有の代謝異常など特定の疾患を対象として1974年から施行されてきた制度です。この事業のもとで医療費のうち自己負担部分の全額が国や都道府県などにより公費負担され、およそ十万人強が恩恵を受けています。しかし法律に基づくものではなく、奨励的補助金と呼ばれる制度であるため国の経済状況により毎年10%の予算削減を余儀なくされ、このままでは数年で補助がなくなるという問題がありました。

私は子どもが難病であったことから親の会にかかわり始め、こういった問題に取り組んできました。「難病のこども支援全国ネットワーク」には、難病・慢性疾患の子どもをもつ親たちが組織する親の会46団体が定期的に集まり、情報交換や研究・研修活動を進めています。

最初の小児慢性特定疾患治療研究事業の法制化への見直しについて、まず取り組んだのは平成4年でした。シンポジウムを行い、厚生省の「これからの母子医療研究会」という検討会に参加し、初めて「QOL」という言葉が登場する画期的な報告書も出ました。当時の厚生省課長とも何度も話し合い、各方面に働きかけ呼びかけましたが、結局、患者団体の足並みがそろわず法制化には至りませんでした。

患者側の意見がまとまり、検討会が始まる

次の取り組みは平成11年。小児慢性特定疾患治療研究事業も補助金削減の対象になるということを知り、メンバーで手分けして国会を回ったり、新聞社に声をかけたり、少子化対策についての議員立法の公聴会に参加したりしましたが、よい反応は得られませんでした。

結局、最初に動いてくれたのは厚生労働省で、担当者がネットワークの事務所まで足を運んでくれ、制度存続について何度も話し合いました。大きな問題は、制度を存続させるためには法制化するしかなく、そうなれば、他の法制度と同様に患者に一部自己負担が発生するということで当初はメンバーの反発も少なくありませんでした。

しかし話し合いを重ねるうちに、時代にあったふさわしい制度を作って、次の世代に渡すべきではないかという意見が出ました。世の中の流れの中で自己負担はやむを得ない、ならば、医療費だけの補助ではなく、きちんと臨床研究も行い、子どもと家族を支える社会制度としての仕組みを整えよう…。ネットワークに参加している団体の意見の方向性がまとまりました。

患者側の意見が統一されたということで、今後の事業のあり方と実施に関する検討会が設置され、私たちも参加することができました。検討会は、平成13年9月から平成14年6月にかけて医療、患者団体、行政、福祉、教育、報道機関など幅広い分野の関係者が集まり10回開催されました。親の会12団体からのヒヤリングも行われ、このような患者側からの意見を積極的に採り入れる姿勢はこれまでにはなかったと、この検討会が高く評価されました。

キャンペーンを展開して、理解を深め、世論を味方に

検討会が始まると同時に厚生労働省の担当者や検討会の座長を招いてフォーラムを開催するなどして、社会やメディアに広く訴えていく広報活動を行いました。キャンペーンを展開するうちにメンバーの意見もかたまってきます。親の会に入ってない会からの問い合わせや、自己負担や法制化反対の意見にもていねいに対応し、法制化に至る経緯を説明しました。

検討会が終わってから、患者団体ごとに個別に嘆願書を出しました。自己負担以外にも認定の基準など数々の問題があります。負担額のみならず、制度のあり方や教育や福祉に関することを含めた具体的な要望を提出したのです。それを受けて、ある程度、要望が受け入れられた回答が約1カ月後に提示されました。国会にも積極的に働きかけをして、昨年11月に法案が国会を通り、4月に施行の運びとなったわけですが、疾病の見直しと重症度基準の設定が患者たちに大きな不安を抱かせるなど、問題点も残っています。早い機会に患者側とのすり合わせが必要だと考えています。

日頃から信頼関係が「協働」を育む

今回の法制化への流れには今までにはない動きがありました。とかく患者と行政は対立関係になりがちな印象がありますが、小児慢性特定疾患治療研究事業の問題では信頼関係を築き、真剣に対話を重ねることができました。国が患者側の立場に配慮し、患者側も既得権にこだわらずに広く考え、学習しながら話し合ったと感じています。闘うとか、勝ち取ったというのではなく、国と患者側が「協働」という関係になれたのではないかという印象があります。私は、患者団体が自己負担を受け入れると決めることの重大さを理解してほしいと真摯に訴えましたし、厚生労働省の担当者もその行動に応えてくれました。

行政とかかわるときには「普通に話をする」ことが大切だと私は考えています。テーブルにつき、きちんと向かい合って話し合いたい。「おまえら役人じゃないか」と高姿勢になったり、反対に「お上だから」と低姿勢になるのではなく、ごく当たり前の、人と人として、それなりの尊敬と信頼をもって話し合うことが必要です。検討会に参加できヒヤリングが実現したのも、この10年の対話と信頼の積み重ねがあったからだと思います。

また細かく調べていくと、私たちに提案できることがいろいろ見つかります。たとえば、民間助成団体の助成対象に小児慢性疾患という項目を入れたり、少子化対策の企業の行動計画対象に小児慢性疾患を入れたり、というような受け入れられやすい提案もできるのです。こうした細かい地道な提案を続けながら、国が私たちを理解してほしい、よりよい改革に取り組んでほしいとつねにアピールしていくことが必要だと思います。そして、勉強し知識を得たうえで、しっかりとしたビジョンをもち、行政に働きかけていくということが重要なのではないでしょうか。