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患者にとっての医療情報のとりいれ方医療情報リテラシー

患者にとっての医療情報のとりいれ方医療情報リテラシー

慶應義塾大学看護医療学部
教授 加藤 眞三 さん

患者の力の3要素

患者の力として重要なのは、①医療者とのやりとり能力・関係性の持ち方(コミュニケーション力)、②情報の集め方・読み方(情報リテラシー)、そして、③病気を抱えながら生きる力の3つであると、私は考えています。
インターネットにより情報が流通する情報化社会の中で、患者さんや一般市民でも手に入れられる健康や医療に関する情報は飛躍的に増加してきました。とりわけ、希少疾患の患者さん、難病の患者さんにとってインターネット上の情報は貴重な情報源です。しかし、インターネット上の情報は玉石混淆の状態にあり、やっかいな代物でもあります。
今回は、患者にとっての医療情報のとりいれ方、医療情報リテラシーの重要性と注意点について述べます。

インターネットと医療情報

インターネットなど利用しないという人もいるかもしれませんが、おそらく家庭の中にはインターネットから情報を得ている人がいるのではないでしょうか。パソコンからだけではなく、スマートフォンからでもインターネットとつながり、色々な情報が得られるのですから、便利な世の中になったものです。
糖尿病や高血圧、慢性肝炎など患者数の多い病気であれば、患者向けの本が出版されていたり、パンフレットができていたりと、病気やその治療・療養生活についての情報も得られやすいのですが、患者数の少ない病気になるとその様なわけにはいきません。そんな時にこそ、インターネット上の情報が役立ちます。
インターネットで情報を得ようとする時、まずキーワードで検索することになります。キーワードで上位に来るものであれば、沢山の人が読んでいるものだから悪いものではないだろうと思いがちです。そこで、上から3つか4つぐらいの記事を読んでみることで安心してしまってはいないでしょうか。しかし、そんなことで信用してはならないということを警告する事件が2016年の秋から年末にかけておきたのです。

キュレーションサイトとは

医療系のキュレーションサイトで、提供する医療・健康情報に問題があったとして休止に追い込まれた事件がありました。キュレーションサイトとはテーマ毎に情報を集めてそのまとめを配信するものであり、多くの読者を獲得していました。しかし、その記事に書かれている内容に問題があり、医師など専門家の監修がない、Googleの検索で上位に表示されるように操作されていた、著作権上の問題などが次々に明らかにされ、その後運営休止となりました。この事件の背景には、インターネット上の配信サイトが注目されると広告収入が発生することがありました。

キュレーションサイト事件から学べること

インターネット上には、信頼性のある情報の提供が主たる目的ではなく、読者を集めることが主目的であるサイトがあふれています。情報の信憑性よりも、多く人が集まり注目されることが最優先となるのです。たとえ非難が集中し炎上しても、客が集まればそれでよしとするサイトさえあります。
テレビでも、民放では視聴率を優先するために、番組作りがセンセーショナルになり、情報の信頼性が二の次にされることがあります。視聴率の高い番組が、すなわち良い情報を提供しているわけではありません。むしろ良質な番組は視聴率が高くとれないことも多いのです。
この事件は、検索上位のサイトが、意図的な操作の結果として来ていることもあることを明らかにしました。視聴率の調査がインチキをされていたようなものです。検索上位というだけで信用するのではなく、誤った情報に惑わされないように、患者も情報を読む力が必要とされます。

信頼ある情報をとりいれるためにどうすれば良いのか

患者や市民が自分の健康を守るために、信頼できる情報をとりいれるために一体どうすれば良いのでしょうか。次の7項目に注意して下さい(図1)。

①基本的な健康常識を身につける

何よりもこれが大切です。その上で、健康常識に合わないことは先ず疑うという姿勢でよく吟味します。基本的常識として、世界がん研究基金の提言をあげたいと思います(表1)。これに合わないことは余程の新しい確実な証拠が加わったのでない限り信じないことです。

②発信者は何のためにその情報を発信しているのかを読む

情報発信者は何らかの目的があって情報を発信しています。その発信者の目的を知る、あるいは推測することが大切になります。キュレーションサイト事件は、情報を発信することではなく、読者を誘導することが目的となってしまった結果として起きた事件です。興味をひく記事に読者を誘導し、集まった読者を商売の道具として利用しようとしているのです。当然、その情報の信頼性は低くなります。たとえ監修者がいたとしても、それだけで信用してはいけません。監修者は名前を貸しているだけで内容をチェックしていない例も過去に数多くあります。専門家であっても実はその話題に適切な専門家ではないこともあります。 「ただより高いものはなし」の言葉通りに、無料で配信されたり配布されたりするものには注意が必要です。

③情報の信用性の重み付けを知る

医師は専門の情報を得るときに、どの雑誌に報告されているのかを重視します。一流誌に掲載されていれば、それだけ厳しく専門家の査読審査を受けているからです。
それと同じように、新聞や雑誌の医療情報も、それぞれの発行会社や発信者の格をみることが必要です。会社の歴史を調べることも参考になります。同じような過ちをおかしてしまう会社が案外多いのです。 全ての情報は参考までにとりいれると考え、100%は信用しないことです。

④普段から良い情報源を確保しておく

情報源を日頃から吟味しておくことが必要です。例えば、SNSなどでも、根拠のない噂話をすぐにリツイートしてしまう人を、私はツイッターのフォローするリストからはずします。
逆に、ある分野の良質な情報をツイートしてくれる人は、良い情報源となります。その人は私にとって良いキュレーター※ということになります。
また、慶應義塾大学病院は健康医療情報をKOMPASという名前でインターネット上に公開しています

⑤今、行動(購買、適応)すべきかどうか

民間療法などや新しい治療法などの情報は、まずは疑いながら接します。すこし時間をおいてから行動に移す方が安全です。時間が経てば、色々な問題が出てくることがあります。急ぐものでなければ、半年ぐらいは待った方がより安全につながります。

⑥信用できる人に相談する

新しい情報を得て、実際に行動する前には、もう一度信頼できる人に相談してみましょう。健康情報であれば、かかりつけ医や医師になった友人などに聞いてみることが奨められます。患者会の先輩でも良いかもしれません。普段から相談できる人を確保する努力をしましょう。自分と価値観の似かよった医師からは、より適切なアドバイスが得られるでしょう。

⑦自分の感覚・体験を大事にする

いざ行動したならば、その後の自分の感覚や体験も大切にして下さい。決して、事前の情報だけを信じ込まないことです。
これらの注意を全部実行できなくても良いのです。最低限①、⑥、⑦ができるならば、あなたの安全が守られます。

※キュレーター:
インターネット上の情報を収集・整理して、他のユーザーに共有する人(または、その行為)

加藤 眞三 さん プロフィール

1980年慶應義塾大学医学部卒業。
1985年同大学大学院医学研究科修了、医学博士。1985〜1988年、米国ニューヨーク市立大学マウントサイナイ医学部研究員。その後、都立広尾病院内科医長、慶應義塾大学医学部内科専任講師(消化器内科)を経て、現在、慶應義塾大学看護医療学部教授(慢性期病態学、終末期病態学担当)。

■著 書
『患者の力 患者学で見つけた医療の新しい姿』(春秋社 2014年)
『患者の生き方 よりよい医療と人生の「患者学」のすすめ』(春秋社 2004年)