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「親が親を助ける」ピアサポートを小児専門病院で行う
難病のこども支援全国ネットワーク
第5回

第5回
「親が親を助ける」ピアサポートを小児専門病院で行う難病のこども支援全国ネットワーク

難病のこども支援全国ネットワークには、小児難病・慢性疾患の親の会が50団体以上参加し、サマーキャンプやシンポジウムの開催、ネットワーク電話相談室や遺伝カウンセリングなどさまざまな活動を展開しています。そこで、同会のピアサポートの特徴や、小児専門病院でのピアサポート活動の実際について、専務理事の小林信秋さんにお話をうかがいました。

認定NPO法人 難病のこども支援全国ネットワーク
専務理事 小林 信秋 さん

小児難病や先天的な疾患の子どもたちとその家族を支え、サポートするネットワークづくりを目指す「難病のこども支援全国ネットワーク」。病気や障がいの子どもを育てた経験のある親たちが、同じ問題に直面している家族に寄り添い、心の支えとなり、さまざまな相談にきめ細かく応えるピアサポート活動に取り組んでいます。

難病のこども支援全国ネットワークのピアサポート活動
●成育・ピアサポート室
2005年3月〜 国立成育医療研究センター(東京都世田谷区)
●神奈川・ピアサポート室
2006年1月〜神奈川県立こども医療センター(神奈川県横浜市)

まず、「親が親を助ける」ピアサポートについて教えてください

難病や慢性疾患の子どもたちは、全国で約20万人以上と言われ、その多くが治療や教育の選択など多様で複雑な問題に直面していますが、こうした子どもや家族のためのサポート体制はほとんど構築されていません。

そこで、当会では米国カリフォルニア州にあるNPO団体PHP(Parents Helping Parents)との交流を通して、その活動を参考にしながら、わが国の実情に合わせた「親という当事者」による「親のための支援」に取り組んできました。そして、難病や障がいのある子どもを育てた経験のある親たちをピアサポーターとして養成し、生活や子育ての相談などに応じるサポート活動を始めたのです。

私たちのピアサポートは、経験のあるベテランの親たちがまだ経験の浅い親たちを支えること、病気や障がいの種別を超えて支援を必要としている多くの家族に広く開かれ、アクセスしやすいものとすること、他者を支援することによって自分たちの家族の力の回復を促すことなどが特徴です。

小児専門病院でのピアサポートは、医療施設で実現したピアサポートの先駆けとして注目されていますね

私は以前、所属団体で相談に携わった経験から、親たちが相談したいと思ったときにすぐ相談できる場が必要だと感じていたので、ぜひ病院で活動したいと医療施設や行政に働きかけました。また、子どもの病気や障がいの経験そのものより、親という当事者として痛みや困難を体験したことに価値があるので、病院で病気や障がいの壁を乗り越えてピアサポートを行うことにも意味があると考えています。

現在、国立成育医療研究センターと神奈川県立こども医療センターで、病院内に部屋やカウンターを借りて活動しています。どちらも病院から独立した窓口として位置づけられ、相談内容は緊急時を除いて病院に通知しませんので、病院や主治医に対する相談もでき、その病院を受診していない人も利用することができます。親という体験的知識に基づく相談という点から、医療ソーシャルワーカーなど専門職との棲み分けも自然と行われています。

相談は電話でも受けており、内容によっては相談者の自宅への訪問や役所への付き添いなどを行うことも計画しています。また、親の会や患者団体、専門職によるネットワーク電話相談室・遺伝カウンセリングなどとの連携も行っています。相談内容はさまざまですが、とにかく話を聞いてほしいという人も多く、ピアサポートが必要とされていることがわかります。

病院でピアサポートを行う上での課題は、病院や医療者との関係です。業務に追われて余裕がなく、病院内でのピアサポートを知らない人も意外に多いのです。これからの病院は積極的にボランティアを受け入れるなどオープンな姿勢が必要ですので、ぜひ浸透させていきたいですね。また、活動にあたっては国などの助成を受けていますが、ピアサポーターの交通費などがかなりかかるため財政面は厳しい状況です。

ピアサポーターになるためには、ピアサポート養成講座で研修を受けるのですね

病気や障がいのある子どもを育てた親たちは、個々に貴重で多様な経験を持っていますが、個人の体験的知識のみに頼ることによる弊害を軽減するために、テキストによる定められた研修と実習を行うとともに、実際の活動の際にも2名で対応することを原則としています。

養成講座では、独自のテキストに基づき、「ピアサポーターの心構え」を繰り返し確認します。この心構えには、言葉遣いや服装など基本的なことから、共感と分かち合いの気持ちを常に持ち合わせること、自分の価値観や経験を押しつけないこと、治療に関して意見や批判を差しはさまないこと、ひとりで背負い込みすぎないことなどの約束事が定められています。相談内容に関しては守秘義務が課せられ、病院内で活動することもあり感染症チェックや健康診断も必要です。ピアサポーターとして活動を始めた後は、毎月のミーティング、年に1回の全体ミーティング、当会主催のセミナーへの参加などによりフォローアップを行うほかにも、親睦会なども行い、相談を受ける側も仲間同士で支え合っています。現在、24人のピアサポーターが、東京と神奈川でそれぞれローテーションを組んで活動しています。

将来に向けて、新しい取り組みなどはありますか

病院でのピアサポート活動で培ったノウハウを生かし、各地に広げていくために、今年から新たにピアサポーター養成講座を開設しました。これは単に相談を受ける技術を学ぶのではなく、活動の在り方、相談を受けるときの心構え、病院などとのよりよい関係の在り方など、実際に活動を進めるにあたって必要な事柄を盛り込んだ講座となっています。

課題としては、成長した子どもが、自分の治療を親が勝手に決めてきたという反発を持つケースが病院などで問題になっていますが、私たちもどうしても親の視点で発想しがちなので、子どもの視点を取り入れていく必要があると考えています。また、成長した子どもたちの就職や恋愛、結婚、出産など成育医療の領域への対応も課題です。

最近は、自治体からピアサポートについての講演を依頼されたり、日本小児保健協会学術集会での私たちの発表も注目されるようになりました。ピアサポートはその必要性が認識され、求められていると感じていますので、これからも積極的に取り組んでいきたいですね。