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医療者による講演や事例集作成の検討など
多角的にピアサポートを考える、関東学習会の試み

医療者による講演や事例集作成の検討など
多角的にピアサポートを考える、関東学習会の試み

VHO-net関東学習会
ピアサポートをテーマにした取り組みを2010年から重ねている関東学習会。2011年6月26日に東京新宿のファイザー本社で開催された、第20回関東学習会では、医療者視点でのピアサポートについての講演や、事例集作成を見据えた事例報告用フォーマットの検討などが行われました。「ピアサポートNOW 特別編」として、独自の取り組みが光る今回の取り組みを詳しくレポートします。

第20回関東学習会では、まず、慶應義塾大学看護医療学部教授・加藤眞三さんによる講演「医療者からみた患者のピアサポートの力」が行われました。肝臓病専門医であり、また、医療者と患者の関係性やスピリチュアルケアを研究されている加藤教授が、医療者の立場から、患者のピアサポートの意義や期待を述べました。講演を受けてのグループディスカッションでは、「医師の立場から患者のピアサポートに関心を持たれていることがうれしい」「患者も治療チームの一員という考え方が印象的」「医療者の視点が参考になった」「ピアサポートの考え方が再構築できた」などの感想が交わされました。
次に各グループで、ピアサポートの事例報告用フォーマットを使った事例発表を行い、フォーマットの書式や事例集の取り組みについて検討しました。実際のピアサポートでは、事例内容が多種多様であることから、「匿名性を高めるために、団体や病名は削除した方が良い」という声の一方、「相談者の詳しい情報も必要」との反対意見も出るなど、フォーマットやそれを利用した事例集の作成に、さまざまな課題があることが浮き彫りになりました。
そこで、グループ発表を受けての全体ディスカッションでは、現段階で対象者や目的を限定せず、活用しやすいフォーマットを模索しながら、事例を蓄積するという方向性が確認されました。最後に、「関東学習会での取り組みを通して、ピアサポートの課題を明らかにしていきたい」という運営委員の呼びかけに一同賛同して、学習会を終了しました。

医療者からみた患者のピアサポートの力 加藤眞三氏 講演より
患者がピアサポートに向かうプロセス

50年以上前から、慢性疾患では、医療者と患者は互いに提供し共有した情報を基に治療方針を交渉し合い、合意した部分から医療行為を行う“協働”の関係性が重要だといわれてきましたが、いまだに日本では実現していません。慢性疾患の場合、医療は病院の中だけではなく、生活の場で行われるので、医療の主導権は患者さんの方にあり、医療者と患者の関係は相互参加型になります。私は、この相互参加型の関係という考え方が、これからの医療にとって重要であるととらえ、医学教育などを通じて医療者側から広めていますし、患者さん側からもこの関係性を切り開いてほしいと考えて、VHO-netの活動にも参加しています。
さて、患者の手記を研究して、その患者さんがどのような心理状況をたどって危機から脱出したかを調べたドイツのエリカ・シューハート博士は、「魂の旅路のシンボル…危機を克服するスパイラルな学習のプロセス」を作成しました。病気という危機に直面すると、患者さんは①不確かな状態→②確かさらしさの認識→③周囲への攻撃→④交渉・取引→⑤鬱状態→⑥受容→⑦活動性→⑧連帯、と変化していきます。みなさんのVHO-netの活動や、患者さんによるピアサポートは、連帯につながる活動に位置します。

ケアすること・されることは、最も人間的な行為

みなさんがどのようなピアサポートができるかを考える場合、身体的、心理的、スピリチュアル(精神的)、社会的という健康の定義の4つの枠組みに分けて考えるとアプローチしやすいと思います。世話になること・面倒をみてもらうことを苦痛と考える人も多いですが、他人へのケアは同情などではなく、ケアすること・ケアされることは、最も人間的な行為です。私は医学生や看護学生に、この最も人間的な行為を職業として任されることは誇りであり、感謝すべきことであると説明しています。
また、病者や障がい者が安全に暮らせることは、健康な人にも安心をもたらしますが、病気や障がいのある人だけが繁栄すればよいというものではありません。社会の繁栄の中に幸福があります。社会全体の中での患者団体、患者団体同士の関係性、互助関係を考えながら、ピアサポートに取り組むことが必要でしょう。

医療の新しい流れとピアサポート

医療が高度化・専門化し、個人のスーパードクターよりも、病院全体の質の向上が求められるようになりました。画一的な価値観が多様化し、情報がたやすく得られる一方で、一体感が得にくい、情報が多すぎて混乱するといった弊害も出てきました。
医療の構図も、患者は医師の指示に従うべきという関係から、チームで医療を行う解決志向型アプローチが提唱され、患者さんもチームの一員と考えられるようになりました。患者さん自身が生活や経験の中から解決の糸口を見つけて、医療者と相談しながら治療方針を決めるという考え方です。

また、問題点を排除するpathogenesis(病因追求論)の考え方から、健康な部分に注目し、残された機能を生かし、活性化させるsalutogenesis(健康生成論)の考え方に移行してきました。
私は、こうした流れの中で肝臓病教室を行ってきました。患者さんにとっては知識や情報が得られ、医療者とのコミュニケーションが育まれ、グループワークによって精神的安心感が得られ、より積極的に生活へ目が向けられるようになります。ピアサポートの役割が果たされます。また医療者にとっても、効率よく情報提供ができ、患者さんを精神的にサポートでき、医療者自身の意欲も増すなどの効用があります。この取り組みは全国に広まり、厚労省も関心を持つなど、今後の展開が期待されます。

スピリチュアルケアへの取り組み

病気により、今まで培ってきた信条や価値観が通用しなくなることがスピリチュアルペイン(精神的な苦痛)です。「どうして私が病気になったのか」「自分が生きている意味は」「死後はどうなるのか」というような回答のない悩みには、医療者の傾聴と患者のグループワークが役立ちます。病気を抱えてどう生きていくかの再構築は、それを背負った本人しかできませんが、順序立てて話す過程が、価値観を書き換える作業になります。傾聴する側は、相手の独り立ちと支え合いの両方を大切にし、自立を重んじつつ援助し、援助しつつ自立を目指す姿勢が必要です。そのようなスピリチュアルケアの場として、患者団体と協力して「※慢性病患者のごった煮会」を立ち上げ、活動しています。
今日は、みなさん自身に、ピアサポートにおいて何ができるかを考えていただくための材料提供として、お話ししました。興味のある方は、「慢性病患者のごった煮会」にぜひ参加してください。

第20回関東学習会参加団体

■あすなろ会
■竹の子の会
■中枢性尿崩症の会(CDIの会)
■NPO法人 日本IDDMネットワーク
■NPO法人 日本プラダー・ウィリー症候群協会
■ポリオの会
■NPO法人 エパレク(環境汚染から呼吸器病患者を守る会)
■NPO法人 肺高血圧症研究会
■NPO法人 睡眠時無呼吸症候群ネットワーク
■CMT友の会
■全国膠原病友の会 千葉県支部・茨城県支部
■(社)全国脊髄損傷者連合会
■CAPS患者・家族の会
■NPO法人 線維筋痛症友の会
■(社)やどかりの里
■(公・社)日本オストミー協会
■徳島多発性硬化症友の会(四国学習会運営委員)
■全国膠原病友の会 高知支部(四国学習会運営委員)

※慢性病患者のごった煮会
慢性病を抱えた患者が集い、語り、そして聞くことにより、病気を抱えていながらも、よりその人らしく生きられることを目的としている。特にスピリチュアルペイン軽減を目標としている。