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小児がんの経験者・家族によるピアサポート「ピアサポートカフェ」
闘病中の子どもを持つ家族や、子どもを亡くした親たちが語り合い、
支え合う場づくり

小児がんの経験者・家族によるピアサポート「ピアサポートカフェ」 闘病中の子どもを持つ家族や、子どもを亡くした親たちが語り合い、支え合う場づくり

公益財団法人 がんの子どもを守る会
がんの子どもとその家族を支援する「公益財団法人 がんの子どもを守る会」(以下、がんの子どもを守る会)では、各支部の活動として、子どもや親たちが抱える問題や悩み、つらい思いなどを語り合う相談会や交流会を積極的に行っています。中でも、福井支部では「ピアサポートカフェ」と名付けて、気軽に集い、語り合うピアサポートを福井県各地で行い、近隣県や他の病気の患者家族にも注目されています。そこで、福井支部の代表幹事を務める坪田起久恵さんと、支部の活動をサポートする本部のソーシャルワーカー、樋口明子さんにお話を伺いました。

理事 福井支部 代表幹事 坪田 起久恵 さん
ソーシャルワーカー 樋口 明子 さん

まず「がんの子どもを守る会」の活動について教えてください

樋口さん 小児がんの子どもと家族は、長期の入院生活や付き添いによる家族の二重生活、経済的負担、入院中の教育などといったさまざまな問題に直面しています。小児がんは医学の進歩に伴い、“不治の病”から“治る病気”になり、それは喜ばしいことではありますが、学校生活への復帰や進学、就職、親からの自立、治療後の晩期合併症※1への対応など新しい問題も生じるようになりました。当会では、こうした問題を総合的にサポートするために、正しい知識や情報の提供、患者家族への支援、相談事業、社会への啓発活動などを行っています。

各地の支部では、幹事を中心に子どもや家族向けの活動を行っています。相談会や交流会には、私たちソーシャルワーカーも同席し、当事者と専門職が両輪で対応すること、子どもを亡くされた方へのグリーフケア※2を行っていることが特徴です。「ピアサポートカフェ」は福井支部独自の活動ですが、各支部でも同じようなピアサポート活動が行われています。

※1 晩期合併症:がんの治療が終わった後に発症するか、治療が終わっても症状が続くもの。二次性のがんや成長障害が多い。
※2 グリーフケア:家族や友人など身近な人を亡くし、悲嘆(グリーフ)に暮れる人に対するサポートをすること。

福井支部の活動は、どのようなきっかけで始まったのですか

坪田さん 私は、息子を7歳の時に脳腫瘍で亡くしました。診断されてからわずか3ヶ月の闘病で息子が亡くなり、呆然としている時に、当会の集いが福井で行われることを知り、「これだ」と感じて参加しました。そこで同じ立場の人たちと出会い、2004年に福井支部を立ち上げました。自分の経験から、がんの子どもの親、そして子どもを亡くした親をサポートする場が地元にも必要だと痛感していたからです。今は、大学病院で入院している子どもたちを対象に読み聞かせや遊びを行う活動やピアサポートカフェ、難病相談・支援センターと連携したピアカウンセリングなどに取り組んでいます。

ピアサポートカフェについて具体的に教えてください

坪田さん 小児がん経験者と家族によるピアサポート、気軽に参加できる茶話会というのが主旨です。福井県は広いので4地域に分けて、順に開催しています。必ず2ヶ所のスペースを用意し、闘病中の家族と、子どもを亡くした家族の2つに分けてグループワークを行います。幹事などがピアサポーターとして進行を担当し、必ず全員が話すように促すことと、傾聴に徹するようにすることを心がけています。幹事は、本部でのピアサボーター研修や、県主催のピアカウンセリング研修に参加しています。また、一般会員のピアサポーターには、支部主催のボランティア研修を受けてもらっています。

樋口さん カフェという名前のとおり、親御さんたちが気軽に安心して話せる場になっているのが、ピアサポートカフェの特徴ですね。託児サービスも行い、親御さんが身軽に参加できるようにしています。私たちソーシャルワーカーは、闘病中の家族のグループに参加することが多く、医療や福祉面の相談に乗ったりアドバイスを行ったりしています。ピアサポーターの皆さんには、参加された方の話を聞き、思いを受け止めることに専念していただいています。

参加された方の反応はいかがですか

樋口さん がんの子どもを抱えた家族の悩みは、大人のがんよりも難病の子どものケースに近く、治療以外に教育の問題や、患児以外のきょうだいへの対応、経済的な問題など多岐にわたり、学校や地域での人間関係の問題も目立ちます。地方では病気をあまりオープンにできない風潮もありますし、噂がメールやインターネットで広まったり、子どものイジメにつながったりすることもあるようです。解決の難しい問題について、同じ立場の親御さん同士で語り合い、支え合う場はとても有効で、皆さんから「参加して良かった」と言われますね。

また病気で子どもを亡くした家族へのグリーフケアは、この地方では当会以外に行っている団体は少なく、とても貴重な場です。子どもを亡くされて間もない方が参加されると、ほかの皆さんが自然にその人の話を聞こう、思う存分語らせてあげようという雰囲気になるのが素晴らしいところだと思います。

坪田さん 福井県でも子どもを亡くした親が語り合い、泣ける場はほかになく、この会だけが楽しみという方もいらっしゃいます。家族にも言えない思いや悲しみを語ることで、その空間、その時間にはお子さんが生きていると感じられるようです。ほかの病気で子どもを亡くされた方、20歳を超えた子どもを亡くされた方も、親としての思いは同じなので話を聞いてほしいと参加される場合もあり、こうした場は求められていると痛感しています。

現状の課題や、今後必要な取り組みについて聞かせてください

樋口さん 小児がんは小児慢性特定疾患治療研究事業の助成が受けられますが、20歳以降は医療費に対する支援はなくなります。晩期合併症を抱える小児がん経験者の就労や自立も重要な課題になってくると思いますので、国や社会に対して医療費支援や就労支援を訴えていきたいと思います。また合併症はなくても、長期入院などで社会経験が不足し、学校や職場に適応しにくいケースもありますので、患者・家族に対して、自立に向けてのガイドブックを作成し支援していきたいと考えています。子育てに熱心で、闘病や当会の活動にも積極的に参加する父親が増えてきたことも、最近の傾向です。良いことなのですが、熱心なあまり両親がともに仕事を辞めて闘病に専念したり、子どもを亡くした後、父親が社会復帰できなかったりするケースなどもありますので、病気の子どもを支える親の働き方ガイドブックの作成も計画しています。

ピアサポーターとして今後の抱負や思いを聞かせてください

坪田さん 福井支部には「いこっさ」(福井弁で“行こう”という意味)という、小児がん経験者の会もあります。がんを克服して成長する子どもが増えていますので、私たちはこの会をもっと発展させていきたいですね。また、闘病中の親御さんは忙しいので、病院内での相談対応やピアサポートも必要です。HPS(ホスピタル・プレイ・スペシャリスト)などの専門職とも連携し、活動ができるように病院にも働きかけていきたいと考えています。

読み聞かせなどの活動も、当初はなかなか病院に受け入れてもらえませんでしたが、ドクターの理解を得て、徐々に活動が広がってきました。苦労もありましたが、今思うとあっという間の10年で、いつも息子が一緒に活動してくれている気がして前向きに生きることができました。この思いを大切に、がんの子どもと家族の皆さんが、ホッとできる場をつくり、前向きになれるようお手伝いをしたいと思います。