Report the ファイザープログラム〜心とからだのヘルスケアに関する市民活動・市民研究支援〜
ファイザープログラムは、ヘルスケアの視点を重視したより良い社会への寄与を目的として、心とからだのヘルスケアの分野で活躍が期待される市民活動・市民研究を応援する助成プログラムです。2000年に創立されて以来、疾病や障がいを抱える方をはじめ、生活困窮者や公的制度の狭間で支援を必要とする人など、従来のヘルスケアの枠では捉えられないような対象者を支援し、また、多くの助成プログラムでは対象とならない人件費や家賃・光熱費等をカバーするなど特色のある取り組みを続けています。
今回は、2022年度と2021年度に選ばれ、その後3年にわたって助成を受けてきた2つのプロジェクトをご紹介します。
※継続助成募集は2023年度で終了
一般社団法人OHANA
“ものつくり”を通して、性被害当事者が 安心して過ごせる居場所を提供 社会復帰につなげる
一般社団法人 OHANA 代表理事
赤松 未来さん
性被害当事者が自尊心や自己肯定感を回復し、生活を再建するには、安心して過ごせる居場所が必要とされます。(一社)OHANAは、緊急的なニーズにも対応しつつ、アトリエや農園といった当事者が継続的に立ち寄れる居場所を提供し、心のよりどころとなる“ものつくり”を通して支援に取り組む団体です。
過去の性被害を誰にも相談できず、一人で悩みを抱え込んできた当事者にも寄り添う息の長い支援を行い、地域でのセーフティネットづくりを目指す同団体についてご紹介します。
活動内容やその背景について教えてください
たちは性被害当事者に対して支援活動を行っている団体です。“オハナ”とはハワイ語で家族という意味で、当事者の家族になりたいという思いから名づけました。
活動としては、相談業務(電話・メール・来所)や、関係機関への同行支援、緊急時の受け入れなどに加えて、“ものつくり”をツールとして、社会復帰を目指した継続的な支援に取り組んでいることが特徴です。「被害を話すことはつらいが、安心して過ごせる居場所がほしい」という当事者に居場所を提供し、ものつくりを通して信頼関係を築き、社会参加のきっかけにすることや、ものつくりを目的に何度も足を運んでもらうことで孤立を防ぎ、中長期的な支援につなげていくことを目指しています。
さらに、当事者がものつくりのスキルを身につけ、ネットショップやイベントなどで作品を販売できるように支援することで、社会復帰の準備や就労体験となることも視野に入れています。「作品が売れる」ことで、自分が求められていると実感して、自尊心や自己肯定感を取り戻すといった効果も期待しています。
ファイザープログラムによりどのような活動に取り組んだのですか
夏休みこどもわくわくフェスタ2025(平塚市)に参加。
子どもたちと石鹸づくりを行う
小物雑貨やアクセサリーのハンドメイドができるアトリエの整備に加え、地域の農地を活用した畑作業により、ものつくりを充実させて、性被害当事者の心身のケアと、安心して社会復帰の準備(就労スキルの習得支援、就労支援)ができる場所を確立するというプロジェクトで応募しました。
自分たちで栽培したラベンダーでポプリを製作
具体的には、ファイザープログラムの助成がスタートした2023年から、地域の農家から無償で提供された農地でハーブや花、野菜の栽培に取り組み、ハーブはポプリに、花はドライフラワーに加工して販売しています。畑作業は、ハンドメイドが苦手という方にも参加してもらえますし、経済的に厳しい状況にある方に収穫した野菜を渡すこともできます。
地域のイベントで作品を販売
農家の方が栽培についてアドバイスしてくださるなど地域との交流もできるようになりました。また、被害を受けて発症した精神疾患やその治療薬によって、不眠や夜型の生活になっている当事者も少なくないのですが、昼間、畑作業に参加することで、朝起きて夜は眠るという本来の生活リズムを取り戻すこともでき、とてもメリットの大きい取り組みだと感じています。
ファイザープログラムはどのような点がよかったと思われますか
助成金の使い道の自由度が高く、さまざまなことに挑戦できる機会が得られるのが、とてもありがたかったと感じています。農地の活用に当たっては、土壌改良やトラクター購入から始めたことで、その後の活動がとても充実しましたし、今まで接点のなかった近所の農家の方など地域の協力が得られるようになりました。
また、プロジェクトの申請や報告といったプロセスの中で、さまざまな助言を受けて団体運営や活動について学べたことも大きかったと思います。単年度ではなく、1年目、2年目、3年目と助成を続けて受けられることで、活動を広げたり充実させたりしていくことができ、常に見守ってもらっているという安心感が得られました。
ファイザープログラムを通じて知り合った皆さんの顔を思い浮かべることで勇気づけられることもあり、「助成金だけではなく、心や力もいただいた」と感じています。
当事者を支援するうえで、どのような課題がありますか
団体への相談者は40代の女性が多く、これは神奈川県全体でもみられる傾向です。DV防止法やストーカー規制法※がなかった時代に性被害を受けて、公的支援や適切な支援を受けられず、誰にも相談できなかったという人が、近年の芸能界の性被害報道などに接してフラッシュバックを起こしている例が増えているのです。
また、性被害を受けたことで精神疾患を発症して、服薬を中心とした精神疾患治療しか受けることができなかったケースや、家族や親族からの性虐待等で所轄が児童相談所であったために、性被害に特化した治療が受けられなかったケースなど、複雑化した相談も増えています。
性被害の背景には経済的な問題や家庭的な問題などがあることも少なくありません。こうした公的支援の対象になりにくい当事者の支援が大きな課題だと感じています。
※DV防止法:配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律
ストーカー規制法:ストーカー行為等の規制等に関する法律
では、今後に向けての展望を聞かせてください
農地の活用を通して地域からの当団体への理解も深まってきていますので、一歩進めて、近隣の保育園などでの野菜の出張販売を計画しています。また、平塚市では2025年から犯罪被害者等支援条例が施行され、当団体の活動に協力したいとの意向もあるので、登録団体申請を予定しています。
最近、支援を求めてこられる当事者の方たちが立ち直られて、社会復帰につながるケースが増えていますので、私たちもさらに活動を充実させて、当事者がより暮らしやすい、社会復帰しやすい地域へと変えていきたいと考えています。公的支援が受けられない当事者も安心して働き、暮らせる環境を整えるため、地域イベント出展などを通して地域とのつながりを深め、当事者が安心して生活できる民間セーフティネットを構築し、行政とも連携しながら、社会参加や経済的自立がしやすい地域づくりを目指したいと思います。
一般社団法人 OHANA
2016年12月任意団体設立。2019年9月非営利型の一般社団法人 OHANAへ移行。神奈川県平塚市を拠点に活動。2022年にファイザープログラム新規助成に応募して選定される。
プロジェクト名と助成額
● 2022年度(1年目) 「ものつくり」をツールとして、性被 害当事者が安心して心身を回復し、社会復帰を目指せる 居場所の確立と地域ネットワークの構築事業 250万円
● 2023年度(2年目) ものつくりを通して性被害当事者 が安心して社会復帰を目指せる居場所の確立 250万円
● 2024年度(3年目) ものつくりを通して性被害当事者 が安心して社会復帰を目指せる居場所の確立 280万円
認定NPO法人 FaSoLabo京都
子どもの視点からの自立支援と 食物アレルギー児・家族の QOL向上を図る
認定NPO法人 FaSoLabo京都 理事
小谷 智恵さん
グルテンフリーの食事が話題を集めたり、商品パッケージにアレルゲンが表示されるなど、近年、食物アレルギーは社会で認知され、ある程度の対応、配慮がなされるようになってきました。しかしながら、人生の各ステージで食物アレルギーの子どもが抱く疎外感は残り、災害時対応などには配慮が行き届いていません。
ファイザープログラムを活用し、子ども視点の自立支援の調査研究を実施し、課題に取り組む、FaSoLabo(ふぁそらぼ)京都の創設者であり理事の小谷智恵さんにお話を伺いました。
「Fa」は food allergy(食物アレルギー)
「So」は social work(ソーシャルワーク)・
sower(種をまく人)
「Labo」は Laboratory(研究所)
設立の経緯と社会的な背景について教えてください
ニュースレター
当団体は、食物アレルギーの子どもと家族のQOLの向上を目指し、任意団体として2005年に発足。食物アレルギーの私の長男が小学校入学のタイミングでした。当時は、食物アレルギーがあると保育園入園もままならず、小学校や学童保育でも対応や理解が広まっていませんでした。
当初の活動は、ニュースレターを発行し、アレルギーに関する情報を発信。保護者だけの会ではなく、医師、行政、子育て支援者との横のネットワークの構築を目指し、保育園・幼稚園・学校・地域の子育てサークルでの食物アレルギーへの理解を求めてきました。
ところが活動を続ける中、子どものためとは思いつつ、保護者目線での子育て支援になっていないかと感じるようになりました。きっかけは5年ほど前の中学生への調査です。「周りの大人や学校にしてもらったことでよかったことは」との問いに、一人が、「何一つ、うれしかったことはない」と回答し、私の心に突き刺さりました。私たちの活動が、子どもにとってよかったのか、検証をしてこなかったことに気づいたのです。そんな気づきもあり、ファイザープログラムの市民研究の種別で、「食物アレルギーの子どもが必要としている子ども視点の自立支援の調査研究」を申請し採択されました。
ファイザープログラムの内容やよかった点について教えてください
長期で調査・分析に取り組みたいと考えていたので、3年間の継続助成があることが大きな魅力でした。1年目に調査を行い、2年目は調査票には現れていない声を拾う、3年目はインタビューなどで、紙での回答と実際の声の違いはどうかを比較し、医師との考えの違いも調べたい。そんなシナリオを描きました。
領収書の提出が不要なことは、ほかの助成金ではあり得ないことで驚きました。私たちのことを信頼してくれていることが伝わり、誠実に対応しなければと、よい意味でのプレッシャーになりました。また、計画変更に対する自由度が高く、提出した計画よりも、こちらの方が重要だと思えば変更できる。研修を受けたい、学会に参加したいとなったときも費用を転換でき、とてもありがたいと思いました。
私事ですが、2019年に社会福祉士の資格を取り、助成期間中の2023年には調査の分析方法を学ぶために大学院に入学。現場と研究者、両方の視点をもつことを目指しました。
調査・研究からどんな成果や課題が見えてきましたか?
調査では、小学生から大学生まで、さまざまな年代の子どもたちの声を聞くことができました。年代によって、抱える思いは違ってきます。小学校の低学年では、命を守るためにも、食物アレルギーであることを言いなさいと患者教育されます。
高学年になると放課後にファストフード店に行くときにどうするか、中学生では修学旅行や学校行事のときには言う必要がある、高校生では食物アレルギーがあるから就けない職業があるのではないか、大学生になり家を離れると、自分が食物アレルギーだと知る人がゼロになり、自分がいかに地域で守られていたかを知り、これからは自分で判断していかなければと思う。これらはほんの一例ですが、どういうタイミングでどんな風に周囲に伝えればよいか、あまり教えられていないのです。
食物アレルギーではない高校生や大学生にも調査を広げたことは大きな成果でした。ニュースなどで食物アレルギーのことは何となく知っていたが、身近にいたらどう接すればよいか、外食に誘うにはどう声かけすればよいか、友だちを思っての声が多く見られました。見えない疾患だけに、伝える方も伝えられる方も気をつかう、難しい問題です。食物アレルギーの子ども自身が望む生活や未来のために、社会に向けて発信できる環境をつくることが大切です。
今後の展望について教えてください
この20年間で、食物アレルギーへの理解は徐々に広がってきました。ただ、私たちの世代が、食物アレルギーでの死亡事故などもあった関係から、子育ての大変さを前面に伝えてきたと思います。そのことで、地域社会で食物アレルギーの子どもを受け入れるのは難しいと、逆にハードルを上げてしまったのではないかという反省もあります。
2022年から始めた「どれみ隊プロジェクト」は、食物アレルギーの有無にかかわらず、集まった子どもたちが挑戦したいこと、社会に伝えたいことをサポートする活動です。米粉のパンを作る調理体験や、身近なお店で食べられるお菓子を探す、防災などのテーマで、活動に取り組んでいます。
京都市乳幼児親子のつどいの広場 ぴいちゃん
「京都市乳幼児親子のつどいの広場 ぴいちゃん」は、京都市からの委託事業で、食物アレルギーがあってもなくても親子が集える場所です。子育て相談員が常駐し、誰でも利用でき、その中で食物アレルギーの正しい理解や配慮も伝えています。これからも、子どもの声を聞く・届けるというスタンスで、研究や活動に取り組んでいきたいと考えています。
認定NPO法人 FaSoLabo京都
■ 2005年4月 任意団体「ぴいちゃんねっと」として設立
■ 2009年3月 「NPO法人 アレルギーネットワーク京都ぴいちゃんねっと」に改組
■ 2015年 京都市子育て支援活動いきいきセンター事業を受託し、乳幼児親子のつどいの広場を開所
■ 2018年 「認定NPO法人 FaSoLabo京都」へ法人名変更
プロジェクト名と助成額
● 2021年度(1年目)「食物アレルギーの子どもが必要としている子ども視点の自立支援の調査研究」助成額131万円
● 2022年度(2年目)「食物アレルギーの子どもが必要としている子ども視点の自立支援の調査研究」助成額150万円
● 2023年度(3年目)「食物アレルギーの子どもが必要としている子ども視点の自立支援の調査研究」助成額150万円