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臨床心理学を基礎とした相談や支援を行う
心の専門家 「臨床心理士」の仕事

臨床心理学を基礎とした相談や支援を行う 心の専門家 「臨床心理士」の仕事

佐賀大学保健管理センター(職員カウンセラー)
佐賀公共職業安定所(心理カウンセラー)
佐賀県スクールカウンセラー
臨床心理士
黒岩 淑子 さん

臨床心理学の知識や技術を用いて心のケアを行う臨床心理士(CP:clinical psychologist)は、高ストレスの時代と言われている昨今、活躍する領域が広がっています。黒岩淑子さんはその知識を生かして、ヘルスケア関連団体で患者や家族の相談を受ける相談者のための講演やカウンセリング講習も行っています。そんな黒岩さんが行っている臨床心理士の具体的な仕事や活動内容をお聞きしました。

カウンセリングは「何でも話してみたい」という信頼関係づくりから
臨床心理士は*1どのような分野で仕事をされているのですか

勤務している場所で最も多いのは病院・診療所などの医療分野、ついで自治体から派遣されるスクールカウンセラーなどの教育分野、福祉分野では児童相談所や障害者福祉施設、最近は企業内相談室やハローワークなどの産業分野や、家庭裁判所、刑務所などの司法・矯正の分野にも広がっています。高ストレス社会といわれる現代で、心の問題から痛ましい事件や事故が起こっています。今後、さらに臨床心理士が必要とされる時代に入っていくと思いますね。

臨床心理士の用いる療法は数多くありますが*2、黒岩さんの専門はどのようなものですか

それぞれの臨床心理士に得意分野があり、私は「来談者中心療法」と「臨床動作法」を用いています。
来談者中心療法では、相談に来た人=来談者の話を聞くのが基本で、1面接50分以内という枠があります。相談はアドバイスと違い、気持ちを受けとめていくことが必要です。そのためには、耳と心でひたすら聞く「傾聴」、相手を全面的に受け入れてあげる「受容」、相手の感情を汲みながら聞く「共感」、そしてカウンセラー自身がありのままの自分で接する「自己一致」というカウンセリングの技法があります。

来談者中心療法で特に気を使うのは、どんなところですか

第1回目の印象がとても重要ですね。この人に何でも話してみたいなという気持や信頼関係を築くことにとても神経を使います。

動作と心の深いつながりから開発された臨床動作法
もう一つの臨床動作法とはどういう療法なのですか

カウンセリングは主にお話をすることが中心ですが、臨床動作法は身体を使って支援していく手法です。九州大学の名誉教授である成瀬悟策先生が開発したもので、最初は脳性麻痺の子どもの動作不自由の改善が目的でした。患児に催眠療法を施すと硬直していた手足が伸びて動くのです。それは気持ちがリラックスしているからで、動作と心は深くつながっているという発見から、現在も臨床動作学会などで幅広く研究が続けられています。

具体的にはどんな動作をするのですか

腰のまげ、腕上げ法、肩や首筋のゆるめ、立位での重心移動など、十数種を超えます。来談者の身体的苦情で多いのが肩こりです。でも、なぜ肩がこるのかを考えない人が多い。仕事で常に緊張している、苦手な上司がいるなど、仕事への拒否感が肩こりや痛みなどの症状で現れることもあるのです。これはマッサージでは治療できません。そこで、まず動作法を使って肩のこりをとって、体の力が抜けるということはこんなにも心地よいことだと感じてもらう。さらにその状態がずっと続くといいですねと、自分でリラックスできる方法を教えていきます。そしてなぜ今までこんなに肩に力を入れて生きてきたんでしょうねと内因を探っていきます。するといろいろな事を話し、辛さの原因に自分で気づいていくのです。
カウンセリングの手法でいきなり心の問題に触れるのではなく、リラックス法でアプローチしていく。それもこの臨床動作法の有効なところです。

無意識にたまっていたストレスがいろいろな現象を引き起こす…まさに心と動作のつながりですね

肩こりや痛みなどの内的要因となるストレスは、人が生きていくうえで避けられないものです。それをうまく回避していくストレスマネジメントの知識が必要なのです。中でも臨床動作法は非常に取り入れやすく、どこでもできて、道具がいらず、お金もかかりません。長続きしやすいので効果も高まってきます。スポーツの世界や学校・病院(精神科)など、さまざまな領域でも採用されています。

効果はどれくらいで現れるのでしょうか

1回の面談で楽になる人もいれば何年もかかる人もいて、性格、症例によってひとり一人違います。臨床心理士はその間、責任を持って対応し、また相談内容は誰にも口外しないという守秘義務があります。家族や友人に話して気分がすっきりしても、口外されない保証はありません。ですので、安心できる環境なら、かえって他人の方が話しやすい場合もあります。

相談を受ける人は、苦手を知る、限界を知ることも大事なことです
佐賀県の難病相談・支援センターで行っている、相談研修プログラムについて教えてください

センターの相談員やヘルスケア関連団体のリーダー、相談担当の方々からは、患者やそのご家族から多くの相談を受ける中で心の疲れを訴える声が出ていたようです。人を支援するということはとてもエネルギーを使います。でもカウンセリングの訓練を受けていると、疲れを回避することもできます。そこでセンターで月に1回、カウンセリングの研修を実施することになりました。

カウンセラーの向き、不向きはありますか

もちろんあります。でも、相談員みんながカウンセラーの役割を担う必要はありません。自分の得意分野を知ることが大切。苦手があっていいのです。私も難病の症状や医学的知識がないので、その相談については詳しい人にお願いしていきます。
センターに関わってみて、たくさんのニーズが持ち込まれているなと感じます。もちろんできることとできないことがあり、できないことは別の専門機関に頼んでいく。そんな連携システムを作ろうとしていますね。自分たちの限界を知るということも大切なのです。経験や得意領域を生かしつつ、役割分担をし協力していくのが一番良いのではないでしょうか。

最後に臨床心理士としてのやりがいを教えてください

やはり来談者が元気になったり、就職できましたと報告に来てくれるときが一番うれしいですね。カチカチだった体が緩んできて「気持ちがいい」と言ってくれたら、それだけでよかったなぁと。長く時間がかかる場合も、1回1回の面談の中に見られる変化、それは周りからみればささやかな変化かもしれませんが、その変化を見つけていくのも臨床心理士の喜びです。

*1〈臨床心理士の資格〉
1988年に創立された、財団法人日本臨床心理士資格認定協会(09年に一般社団法人 日本臨床心理士会となる)の認定を受けて心理士の資格を取った人を「臨床心理士」と呼びます。臨床心理士養成のための指定大学院(現在156校)、または専門職大学院(現在4校)のいずれかを終了し、年1回実施される認定試験に合格する必要があります。2007年の調査では、16,732名(医師440名を含む)が認定され、さまざまな領域で活躍しています。

*2〈臨床心理学を基礎とした相談・支援の方法〉
●面接相談 発達障がい児の療育・訓練/遊戯療法/箱庭療法/芸術療法/来談者中心療法・カウンセリング/精神分析心理療法/夢分析/行動療法/認知行動療法/催眠療法・イメージ療法/内観療法/EMDR/臨床動作法/解決志向アプローチ/家族療法・夫婦療法/グループ療法/デイケア・ナイトケア/人格検査/知能検査・発達検査
●面接相談以外の方法 電話相談/メールカウンセリング/手紙・FAXによるカウンセリング/訪問カウンセリング