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社団法人 やどかりの里

社団法人 やどかりの里

常務理事 やどかり情報館館長 増田一世

「やどかりの里」は、さいたま市を拠点として、精神障がい(主に慢性の統合失調症)のある人たちが、地域で安心して暮らしていくための支援活動を行っている団体です。1970年の設立以来、精神障がい者支援の草分け的な存在として、社会復帰施設や地域生活支援センターを開設するとともに、出版や研修、研究事業などを通して、精神障がい者の福祉の向上と地域での精神保健福祉の推進と普及をめざしています。

活動の状況
活動のスタートは、退院後の生活支援から

統合失調症は、以前は精神分裂症と言われていた精神障がいで、原因などが未だはっきりせず、根本的な治療法が確立されていません。思春期に発病する人が多く、慢性的な傾向をたどる場合があり、多くの患者さんは疲れやすさ、統合力の弱さ、人間関係における過度の緊張といった生きづらさをもちます。また、稀に当事者が関係した事件などの話題が先行するため、社会的な偏見が強く、いったん病気にかかると就職や結婚などに大きな障がいとなることも多いのが現状です。日本では精神障がい者への福祉的施策の遅れにより、長期入院をせざるをえない人も多く、病気の治療が終わっても地域に帰る場がないために入院を継続する社会的入院者が7万2千人いると言われています。

こうした患者さんの退院後の生活を支援するために、1970(昭和45)年、埼玉県大宮市(現さいたま市)大宮厚生病院の精神医療ソーシャルワーカーであった谷中輝雄氏を中心に設立されたのが「やどかりの里」で、当初は住まいの確保や職場の開拓が主な活動でした。その後の20年間は、公的な補助金事業のない中で常に財政危機を抱えた状態が続きましたが、地域で協力者や理解者を得て、「やどかりの里」を支援するネットワークに助けられながら、活動してきました。

1987年の精神保健法の改正により、地域で精神障がい者を支援する活動や、社会復帰施設が認められて、国と県の補助金が得られるようになりました。そこで1990年に社会復帰施設を建設し、さらにその後地域生活支援センターや作業所、グループホームを開設するなど、活動の場が広がっていきました。

高齢化対応や、就労への取り組みが今後の課題

現在では、「やどかりの里」はさいたま市内に「住む場、働く場、憩いの場」を点在させ、精神障がいをもつ人たちと家族、職員、多くの地域の人々などが共に地域で安心して暮らせる社会をめざして積極的に活動を進めています。現在200名ほどの利用者が生活支援センターに登録し、グループホームに入居したり、作業所に通ったり、家族と同居しながらサークル活動に参加するなどしています。主に利用者は埼玉県在住者ですが、「やどかりの里」を利用するために転居してくる人もいるほどです。1997年4月には、福祉工場「やどかり情報館」がオープンし、23名の精神障がい者が労働者として働き、出版や研究活動も展開しています。

これからの課題としては、まず高齢化への対応があげられます。自立していた利用者が高齢化のため身体的な支援などが必要となる人が出てきたので、施設のバリアフリー化や職員の増員なども必要になってくると考えられます。さらに家族同居の場合、親御さんの高齢化も問題となるので、できるだけ早く自立して暮らせるように、チャレンジハウスという一人暮らしを経験する活動に取り組んでいます。また、できれば一般企業で働きたいという人も増えてきました。企業が求める労働力と提供できる労働力の差をどう調整して、健康を守って就労を実現していくかも大きな問題です。

このように解決しなければならないことは多くありますが、1人でも多くの精神障がい者が地域の中で自分らしく暮らせるように、生活を支える活動を続けていきたいと思います。

「住む場、働く場、憩いの場」を提供して生活を支援

●通所授産施設「エンジュ」
在宅の高齢者や障がい者への食事サービス(昼食と夕食)を行っており、精神障がい者と栄養士や、調理員などの職員が働いています。エンジュでは、無理をせず健康を維持して働くこと、衛生と安全に配慮しながら仕事に取り組むこと、話し合いを基盤として活動を進めていくことを大切にし、健康的に働く場づくりをめざしています。

●援護寮
長期入院から地域生活へ、親から自立して一人暮らしを目指す人たちが中心ですが、休息、親睦、危機を乗り越えるためなどにも利用されています。

●福祉工場「やどかり情報館」
病気を隠さずに安心して働ける場所がほしいという声から生まれた福祉工場です。出版、印刷、研究所の3部門があり、最低賃金など労働関係法規が適用され、用件を満たす人は社会保険、厚生年金、雇用保険に加入しています。
また、やどかり出版では、障がいや疾病を持つ人々の社会に届きづらい声を発信することを大きな使命とし、精神障がい分野を中心に、障害福祉や地域保健(公衆衛生)の分野の出版物を手がけています。

●地域生活支援センター
地域で生活している精神障がい者への支援を行うと同時に、必要な資源の開拓や調整を行っています。現在、大宮東部、大宮中部、浦和に生活支援センターを開設しています。

●作業所
10〜15人ほどの利用者が集まり、自分なりのスタンスで働くことのできる場所です。6か所の作業所があり、喫茶店の営業、やどかりのメンバーへの食事サービス、リサイクルショップ、それぞれの個性を活かした手作り品の制作など、特徴ある活動を行っています。

●グループホーム
1つのアパートのうち4~5世帯をやどかりの里が契約し、住居の確保が難しい人に提供しています。入居者の中でリーダーを決め、入居者同士が支えながら暮らしています。困ったことが起きたときには、職員と共に問題解決を図っています。

●サークル活動
趣味の会や楽しみの会、食事づくりやパソコンなどを学ぶ会が開かれています。また、仲間づくりや一人暮らし、働くことを目的としたグループ活動も行われています。