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VHO-net ピアサポート倫理ガイドラインをもとに
団体独自のガイドラインを制定

VHO-net ピアサポート倫理ガイドラインをもとに団体独自のガイドラインを制定

公益社団法人 やどかりの里は、精神障がいのある人たちが、地域の中で生き生きと暮らし、働くことを目的に1970年に活動を開始しました。50余年にわたり、労働・生活・相談支援活動、患者中心の精神科医療の実現、社会保障・権利擁護の推進活動などを行っています。ピアサポート事業も積極的に導入しており、2020年10月に制定された「VHO-net ピアサポート倫理ガイドライン」をもとに、やどかりの里独自の、ピアサポート倫理ガイドラインを21年1月に制定しました。その目的や経緯、活用の仕方や効果などについて、理事長の増田一世さんと、精神障がいの経験を生かしピアサポーターを務める加藤康士さんにお話を伺いました。

益社団法人 やどかりの里
(右) 理事長
増田 一世さん
(左) ピアサポーター
加藤 康士さん

 
 
やどかりの里ピアサポート倫理ガイドライン (抜粋)

1. 目的
(前略)やどかりの里のピアサポートとは、精神障害等を体験し、回復した人たちが自らの経験を生かし、同じ経験をしている人たちに対し、必要なサポートを行うことを意味するものです。相手の話しを聴く、いっしょに考える、出かけることをサポートする、家事などをともに担う、過ごしやすいように環境を整えるなど、さまざまな取り組みがあります。

3.プライバシー保護と個人情報の取り扱い
私たちピアサポーターは支援する人たち(以下メンバー)のプライバシー保護を徹底します。個人情報を取り扱う場合は、個人情報保護法を遵守し、得られた個人情報は漏えい防止も含めて、責任をもって管理します。

5.チームワークと自己研鑽
ピアサポートは万能ではありません。私たちピアサポーターは、仲間とともに学び合い、チームの一員としての役割を果たします。他団体、関係機関、専門職とのネットワークの構築を目指し、ピアサポートの質の向上に向けて自己研鑽に努めます。

やどかりの里では、就労支援のための作業所やグループホーム、自立を支援する施設など、さまざまな事業を行っています。その中でのピアサポーターの位置づけや活動内容について教えてください

増田
やどかりの里(以下、やどかり)でピアサポート活動を明確に位置づけたのは、2008年にピアサポート事業部を立ち上げてからです。まず手がけたのは、法人で運営する作業所でつくるお弁当を在宅で暮らす障がいのある人たちに届ける活動でした。別の作業所では、人手が不足し、外部から人を雇うよりも、長年作業所で働いている利用者(以下、メンバー)を、やどかりの非常勤職員として採用しようということになり、当事者を雇用する気運が高まっていきました。また、さいたま市から、当事者支援員の養成事業を受託しており、そこで研修を受けた人たちや、その他にも雇用形態はさまざまですが、現在、8名のピアサポーターが働いています。(2021年6月現在)

加藤
私もやどかりの作業所の利用者でしたが、職員からの推薦でピアサポート事業部に登録し、現在は法人内の別の作業所に派遣されるピアサポーターとして勤務しています。たとえば難病の団体の場合、ピアカウンセリングによる相談事業がメインになると思いますが、精神障がい者がメンバーであるやどかりでは、いっしょに散歩をする、移動の支援をする、グループホームの室内のメンテナンスをともに行うなど、仕事の種類が多岐にわたるのが特徴です。そのことを、ガイドラインの「1.目的」に明記しました。

VHO-netピアサポート倫理ガイドライン制定後から、やどかり独自のガイドライン制定に至るプロセスを教えてください

増田
2019年に、職員3名と加藤さんら3名のピアサポーターの計6名で、ピアサポーターの養成と定着にかかわる研究チームを立ち上げました。私はVHO-netの中央世話人でもあり、『VHO-netが考える ピアサポート5か条』もみんなに見てもらい勉強もしていました。そんな中、VHO-netピアサポート倫理ガイドラインが制定され、これは管理者が一方的につくるものではなく、みんなで話し合ってつくるものだと伝え、研究チームで検討を始めました。

加藤
これからピアサポーターの仲間を増やしていくときに、独りよがりな支援にならないことが大事という意見が出ました。同じ目線でのサポートのつもりでも、相手の権利を傷つけてしまう可能性がある。やはりある程度のルール、ガイドラインは必要だという方向性が決まり、研究チームでまず大枠をつくり、その後、ピアサポーター研修会で意見を聞き、また研究チームに持ち帰るということを繰り返し、深めていきました。

増田
やどかりのピアサポートは生活場面で支援する仕事が多く、日常的な関係性が生まれやすい。普段のおしゃべりの中でつい固有名詞が出たり、プライベートな部分を話してしまうこともあります。個人情報の保護は大きなテーマでしたね。

加藤
「3. プライバシー保護と個人情報の取り扱い」については、議論を重ねました。ピアサポート研修の事例検討では、「〇〇さんがこういうことをした」という、個人が特定されてしまう発言もあります。職務上知り得たことが広まり、ピアサポーターと支援者の関係性を崩してしまう危険性があります。やはり、個人情報は徹底して守ろうという結論に至りました。ただ、ガイドラインに明記したから、すぐに守れるわけではなく、つい言ってしまうこともある。それでも、ルールとして明文化しておくと、なぜいけないのかが説得しやすく、意義があると思います。

「5. チームワークと自己研鑽」については、「仲間」ということを強く意識していると 感じました

増田
ピアサポート活動はチームで行うべきだと思います。団体の中で、たった一人でピアサポートをするのは、精神的にもかなりの負担があります。考えていることや悩みを仲間でシェアしていくことはとても大切です。

加藤
「ピアサポーターは万能ではありません」という文言は、本来、たたき台にはなかったのです。ところがみんなに意見を求めたところ、ピアサポーターができることは限界があるという話が出て、ピアサポート5か条のあとがきにある一文を引用させていただきました。独りよがりな支援にならないよう、苦労を話し合い、違う意見を聞き、自分は一人ではないことに気づく。負担やストレスを軽くし、体調をコントロールする意味でも、仲間の存在がとてもありがたい。万能ではないけれど、「仲間とともに学び合い、チームの一員としての役割を果たす」ことで、力を発揮できると私たちは思っています。

これからガイドラインをつくろうとしている、ヘルスケア関連団体へアドバイスをお願いします

加藤
管理者やリーダーだけでつくるのではなく、現場で働くピアサポーターとともに、ていねいに議論を重ねてつくってほしい。その方が、ピアサポーターにとっても愛着がわくと思います。やどかりでは、ピアサポーター養成講座でこのガイドラインについての講義の時間を設けています。教材としても使え、ピアサポーターの心構えを理解してもらうためにも活用しています。

増田
目的はガイドラインをつくることですが、つくることを通して自分たちのサポートはこれでいいのか、振り返るきっかけとなり、その過程も大切です。そういう見直しをしつつ、次にどうするかを絶えず繰り返していくことが、ピアサポートの発展につながると感じています。

まねきねこの視点

2020年10月に制定された、VHO-netピアサポート倫理ガイドラインは、VHO-netのメンバーであるヘルスケア関連団体が、これを参考にして、団体独自のガイドライン制定につなげていってほしいという目的でつくられました。やどかりの里では、ピアサポーターの職域の広さという特性や、仲間意識の大切さを盛りこんだ、やどかりの里ならではのガイドラインが制定されました。制定へのプロセスでの話し合いを大切に、社会から信頼されるピアサポートを目指して、皆さんもぜひ、取り組んでほしいと願っています。