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創造的な活動をするためのソース原理と患者会

創造的な活動をするためのソース原理と患者会

はじめに

前回、人類が迎える新しい時代の組織のあり方、ティール組織について述べました。ティール組織とは、構成する人が自律的であり、それぞれの個人が個性を発揮し、しかも全体性を保ち、組織の存在目的をもっている組織であり、お互いにオープンな関係性が保たれているのです 1)。

確かに、こんな組織ができれば理想的だとは考えますが、そんな組織が本当に実現可能だろうかと懐疑的でもありました。しかし、ティール組織は理論や空想で創ったものではなく、フレデリック・ラルーが現実の社会にすでに出現している組織を分析して報告したものです。では、どうすればティール組織は実現するのだろうかという関心をわたしはもちました。

ティール組織とソース原理のワークショップ

そんな時に出会ったのが、天外伺朗著の『実存的変容 人類が目覚め、ティールの時代が来る』でした 2)。ティールの時代を迎えるためには、リーダーの意識の変容が求められているという内容でした。

「そうだろう、やはり、先に人が変わらないことには、そんな組織が成功するわけはない」とわたしは納得しました。実存的変容に関心をもち、天外氏の活動を調べてみると、「ティール組織とソース原理のダイアログ」というワークショップの開催が告知されていました。ソース原理については全く知らないままに、このワークショップに申し込み、参加してみたのです。

このワークショップには、ラルーの『ティール組織』の解説をした嘉村賢州氏をはじめ、ソース原理の本の翻訳にあたっている山田裕嗣氏、青野英明氏も参加しているという贅沢な布陣でした。6回のシリーズで開催されるワークショップにまだ3回しか受講していないのですが、新しく知ったり、考えさせられたり、得られるものがたくさんありました。ここでは、ワークショップで学んだことを簡単に紹介したいと思います。

ティール組織を目指した組織は失敗する

まず、最初に驚かされたのは、日本でティール組織を目指して活動した組織は失敗しているという事実でした。みんなが平等でフラットに意見を言い合える民主的な組織、「ラルーのグリーン(民主的な)組織」は、組織の活動が停滞しやすくなり、あまりうまく動かないというのです。

患者会の世話をしている皆さんの中にも、自患者会の世話をしている皆さんの中にも、自分たちの組織の運営の仕方で悩んでいる人が多いのではないでしょうか。ワンマンな運営ではいけないし、民主的で平等にやろうとすると組織が動かないというジレンマに悩まされていませんでしょうか。

わたし自身、最近自分が呼びかけて開催している会の活動に停滞感を感じ始めていたのです。できるだけ民主的な運営で行いたいという気持ちが強くて、自分自身をあまり前に出さないようにと意識をして、会を運営していたのですが、そのような失敗をしないための秘訣が、ソース原理であったのです。わたしは、この十年以上の間違った思い込みから叩き起こされた気がしました。

ソース原理とは

これまでソース原理について全く知識がなく、それは経営者のためのものと考えていましたが、ワークショップに参加して、ソース原理は、創造的な活動をする組織に欠かせないものであることを知りました。

ソース原理は、2010年頃にピーター・カーニック※が提唱したものであり、その弟子に当たるトム・ニクソンが「ソース原理」として一冊の本にまとめ3)、全世界に知られることになったのです。

ティール組織を著したラルーも、書く時点でソース原理を知っていたならば、ソース原理について紹介しただろうと述べているそうです。それほど、ティール組織とソース原理は親和性の高いものなのです。

ソースとは、イニシアチブとは

ソースとは「リスクを最初に取って、あるイニシアチブを始めた特定の個人」を意味します。カーニックは、ここでの特定の個人とは2人以上ではなく、1人であることを強調していたそうですが、天外氏によると日本では2人以上でも可能かも知れないと留保されています。ソースは引き継ぐことも可能なものです。

イニシアチブとは、「個人の心の中にある、世の中に何かを創造したり、世の中の何かに変化をもたらすようなアイデア」(ビジョン)を実現することを目的とした継続的なプロセスのことを指します。

ここまでの話で、ソースはオレンジ(実力主義、競争社会)社会のワンマン経営のカリスマ経営者と変わらないではないかと考える人もいるかも知れません。しかし、ソースは必ずしも固定した位や権力の構造ではなく、イニシアチブの中にサブイニシアチブがあり、サブイニシアチブにはサブソースがいて、サブイニシアチブではサブソースの人の下に全体のソースに当たる人が働くこともありうるのだそうです。

ソースは、イニシアチブの境界を身体感覚により決定する大きな役割をもっているとされますが、すべての解決策を知っているのではなく、常に迷いの中にあり、イニシアチブの中ではオープンな対話が成立します。

また、ソース原理の大前提として「すべての人は、生まれながらにして、(その人にとっての)ソースである」という、いのちの循環に基づく深い慈愛の思想があり、「ソースは、特権階級のものではなく、世界のあらゆる場所にあり、富裕層から貧困層まで、あらゆる階層の人々がいる」という観方が不可欠とされています。このことを見失うと、ソースの横暴や悪用につながっていくからです。

ここまで読んだことでソース原理に関心をもった人は、是非、成書 3)を読んだり、ワークショップに参加することにより、自分の問題としてソース原理をとらえ、考え、行動してほしいと思います。とくに、成書の中のマネーワークは、今までの自分の価値観を問い直されることになり、面白く感じられるだろうと思います。

結局、ティールの組織が生まれるためには

ティールの組織を生むのは、ソースに呼びかけられて創られた場ではないかというのが、わたしの結論です。まず、ソースとなる人は実存的変容を起こしている人であり、その人がアイデアの気づきによって呼びかけ、呼びかけに賛同した人が集まり、イニシアチブを立ち上げ、みんながオープンな関係で対話し協働作業をする場が生まれてくるのだと思います。そして、ソースが場を創り、場がティール組織の構成員の意識の変容を促し、ティール組織が生まれることを助けるのだろうと現時点のわたしは考えています。

新しい時代の患者会となるために

患者会の運営は、今、大きな転換期を迎えているのではないかと思います。(一社)日本難病・疾病団体協議会(JPA)のホームページには、患者会の役割として、次の三項目を挙げています。

①病気を科学的にとらえること。 ②病気と闘う気概をもつこと。 ③病気を克服する条件をつくりだすこと。

昔は、病気に関する情報を得ることが難しく、情報に飢えた患者さんが患者会に①の医療情報を求めて参加することが多かったでしょう。しかし、近年はインターネットの発達により、必要とする情報を自宅にてネット上で簡単に得られます。したがって、インターネットの利用に馴れている若い患者さんは、あえて患者会に参加しなくても情報が入手できてしまうのです。

今後、患者会では、②や③の比率が相対的に大きくなることになるでしょう。個人主義の傾向が強い若い世代では、最初から③を求めての患者会への参加は少ないだろうと考えられますから、患者会では、②の役割がますます大きくなるのです。

②は、別の言葉で表現すると「病気を抱えながらも元気に生きることを支援すること」であろうと考えられます。そして、そのためには患者会としての新たな仕組みを創ることが必要となるのです。

そのためにも、患者会を世話する人がソース原理を学んでおくことが大切だろうと思うのです。わたしの観察では、患者会の世話をしている人の多くは、すでに、病気により実存的変容を経験しているように思います。そのような人がソース原理を知り、アイデア(理想像)を掲げて周囲に呼びかけ、呼びかけに応じた仲間とイニシアチブを立ち上げれば、きっと面白い活動ができるだろうと思います。是非、ソース原理を知ったうえで、新しい組織づくりに挑戦をしてみてください。

参考図書
1)フレデリック・ラルー(著)、鈴木立哉(翻訳)、嘉村賢州 (解説)『ティール組織-マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』英治出版 2018
2)天外伺朗『実存的変容 人類が目覚め、「ティールの時代」が来る』内外出版社 2019
3)トム・ニクソン(著)、山田裕嗣、青野英明、嘉村賢州 (監訳)『すべては1人から始まる――ビッグアイデアに向かって人と組織が動き出す「ソース原理」の力』英治出版 2022

※ピーター・カーニック
「ソース原理」の提唱者・創始者。スイスのチューリッヒを活動拠点とし、「ソースワーク&マネーワーク」 などのワークショップを開催。ジュネーブでMBAを取得した後、企業の管理職向けのトレーニング、リーダーシップ教育、戦略立案プロセスを支援するビジネスを展開。

加藤 眞三さん プロフィール

加藤 眞三さん プロフィール 加藤 眞三さん プロフィール 1980年慶應義塾大学医学部卒業。
1985年同大学大学院医学研究科修了、医学博士。1985〜1988年、米国ニューヨーク市立大学マウントサイナイ医学部研究員。その後、都立広尾病院内科医長、慶應義塾大学医学部内科専任講師(消化器内科)を経て、慶應義塾大学看護医療学部教授(慢性期病態学、終末期病態学担当)。現在、慶應義塾大学名誉教授。

■著書
『患者の力 患者学で見つけた医療の新しい姿』(春秋社 2014年)
『患者の生き方 よりよい医療と人生の 「患者学」のすすめ』(春秋社 2004年)