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大規模災害時に難病患者はどうなる?「1型糖尿病患者からのアプローチ」 シンポジウム in 三重

大規模災害時に難病患者はどうなる?「1型糖尿病患者からのアプローチ」
シンポジウム in 三重

主催
■三重県(健康福祉部、防災機器管理部、生活部)
■災害時の難病患者支援プロジェクト(三重県防災ボランティアコーディネーター養成協議会、特定非営利活動法人災害ボランティアネットワーク鈴鹿、特定非営利活動法人日本IDDMネットワーク)

2006年12月16日、三重県庁講堂において約200人が参加し、シンポジウム「大規模災害時に難病患者はどうなる?”1型糖尿病患者からのアプローチ“」が開催されました。30年以内に60%の確率で起こると言われている東海・東南海・南海地震。もし地震が起こった場合多大な被害が予想される三重県で、大規模災害時における難病患者の行動・支援はどうあるべきか。全国の1型糖尿病患者、家族、医療関係者、防災関係を含めた行政、製薬企業の方々が意見を交換しました。司会はヘルスケア関連団体「日本IDDMネットワーク」専務理事の陶山えつ子さんが行いました。

基調講演
「災害が起きる前に病気に対する対処策を持つことが命を救う」

災害時にも継続的治療を必要とする患者をだれがどうサポートしていくのか。それにはまず患者自身がどういった行動をとるか普段から備えておくことが必要です。今回は阪神淡路大震災の被災地で、インスリンの入手等に大変な苦労を強いられたという1型糖尿病(IDDM)患者からのアプローチですが、すべての難病患者、高齢者等、災害弱者全体に共通するテーマでもあります。

三重県では災害時、復旧活動でのボランティアを受け入れる人材を養成する、「三重県防災ボランティアコーディネーター養成協議会」を立ち上げています。その議長山本康史氏による基調講演では、大規模災害が起こったときの状況を阪神・淡路大震災の映像とともに紹介。まず停電が襲う。人工呼吸器などを使う電気を必要とする患者はどうするのか?避難時に足が不自由な場合は?避難所生活での医薬品の入手は、生活の再建は?さまざまな段階で難病患者に問題が発生し、病気の種類や病状によって必要な配慮も変わる。それに対して行政のマンパワーは果たしてどのくらいあるのか?

「支援を求める人の方が支援できる人間より圧倒的に多い。特に行政は救急救命、ライフラインの復活などが優先で、個人を助けてくれることに期待はできない。大事なのは災害が起こる前から支援者を増やしていくこと。自分、家族、隣近所、友人といったマンパワーが大いに力になる。自助・共助の考え方を持とう」とくくりました。

続いて、庵原先生の基調講演ではIDDM患者が災害時にどういう状況に直面するかを具体的に検証されました。現在、病院の医薬品在庫は3〜5日分、それも入院患者用で大規模災害時に病院に薬はないと思うこと。IDDM患者は、最低2週間分のインスリンを常に確保し、自宅だけでなく近所の人に預けておくなど分散して保管、保管場所も冷蔵庫など倒壊しにくい場所を選ぶなどを提唱しました。

「避難所では食事が偏り不規則になるため、低血糖に陥ります。そのためにインシュリンの打ち方もコントロールする。これを普段の状態であらかじめシミュレーションし、災害時に備えることも有効です。道路の遮断などでかかりつけの病院に行けない場合は、薬さえ持っていればどの医院でも処方箋は書いてくれます。また、あらかじめ1型を専門にしている病院を把握しておきましょう。まずIDDMという病気を受け入れ、病気と仲良くつきあい予防策を考えておく。その姿勢が役立つ。大規模災害時は自助7、共助2、公助1の気持ちで立ち向かわなければならないのです」と語りました。

パネルディスカッション
「避難所では病名を公言することで、思いやりや工夫が生まれる」
パネリストがそれぞれの立場で意見を発表しました。

「三重県は全国で4番目に地震対策条例を施行し、地震対策マニュアルを全戸に配布している。ハード面では避難路、緊急輸送路、防潮堤の整備などを進めています。災害時の避難所での保健活動のマニュアルなども作成しています。県側は難病患者さん全員を把握していますが、個人情報保護法のもと市町村側にリストを提供できないことになっています。本人が災害時要援護者として自己申請するしかありません」と三重県健康づくり室室長の宮川氏。それを受けて、IDDM患者で阪神・淡路大震災を経験した森地一夫さんは、「当時はわずかなインスリンが必要な病状だったが、実際に手に入ったのは3日後だった。今は備蓄や搬送が改善されているといっても孤立感は高まる。IDDMの人は避難所では病名をカードに書き首からぶらさげるくらいはっきり公言したほうがいい。一見、普通なのだから。少しの思いやりや工夫でスムーズにいく部分もあるし、理解も深まります。具体的なイメージをもって備えることが大切です。また行政には安心感が見えるような対策を期待しています」と発言。

インスリンの製薬会社であるイーライ・リリー株式会社の平田氏は、「インスリンが1週間、市場からなくなることはまずありません。そういう体制の製造システムは整備しています。ただ、メーカーとしても保管場所を分散してのストックをおすすめします。またインスリンを置いている薬局を複数つかんでおくことも重要です。今後もこのような啓発活動を続けていきます」と語りました。

質疑応答では薬の互換性について情報、薬の履歴書を自分で作っておくなど対処の仕方、重度の難病患者への避難所対応などの質問がなされました。最後にコーディネーターの山本康史氏が参加者全員にこんな質問を試みました。「もし自分が難病患者だった場合、大規模災害時には個人情報保護法優先よりも情報を公開してほしいと思いますか?」。会場を埋めた大半の参加者の手が上がったのが印象的でした。