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「生活をするのは普通の場所がいい
STOP! 精神科病棟転換型居住系施設!! 6.26 緊急集会」開催
病棟転換とは? どこが問題なのか? その背景は?

病棟転換とは? どこが問題なのか? その背景は?
「生活をするのは普通の場所がいい
STOP! 精神科病棟転換型居住系施設!! 6.26 緊急集会」開催

6月26日、精神科病棟転換型居住系施設に反対する緊急集会が東京・日比谷野外音楽堂で行われました。これは、精神科病棟の空いたベッドを介護精神型施設、宿泊型自立訓練施設、グループホーム、アパートなどに転換するという厚生労働省の計画にストップをかけようというものです。
緊急集会では、呼びかけ人代表の杏林大学教授 長谷川利夫さんの基調報告と、来賓の国会議員や呼びかけ人によるメッセージ、社会的入院を経験した当事者、家族、支援者によるリレートーク、緊急アピールの発表、参加者全員によるシュプレヒコールなどが行われました。登壇者は、「病棟転換型居住系施設は“地域生活中心へ”という精神保健医療福祉の改革ビジョンに反する施策である」「今年1月に批准した障害者権利条約にそぐわない」、また「検討会に当事者がごく少数しか参加していない」などと訴え、参加者全員でアピールを採択しました。

今回の緊急集会に関しては、各方面から賛同の声が上がり、当日は予想を超える3200人もの参加者が集まり、精神障がい以外の障がい者団体関係者も参加しました。さらに、開催後も多くのメディアに取り上げられるなど反響は大きく、昨今の医療福祉行政のあり方について危機意識を抱いている人が多いことがうかがえました。
そこで、緊急集会の呼びかけ人であり、精神障がいのある人たちの生活や就労を支援する公益社団法人 やどかりの里の増田一世さんに、病棟転換型居住系施設についての背景や、今回の緊急集会の意義などをお聞きしました。

病棟転換型居住系施設はなぜ認められないのか

病棟転換型居住系施設の問題の背景は?
公益社団法人 やどかりの里 増田 一世 さん

そもそも日本では精神科の病床数が多く、長期入院が当たり前に行われていたという根深い問題があります。2004年に示された「入院医療中心から地域生活中心へ」という精神保健医療福祉の改革ビジョンですが、10年経っても改革は進みませんでした。入院の長期化に伴い社会で居場所を失い、今も何十年も病院に住むしかない状況の患者さんがいます。最近はうつ病や心身症などが身近な病気として認識されるようになりましたが、精神疾患に対する偏見は今も強く、家族に依存する支援の仕組みや、入院中心の精神科医療の体制が長年続き、どうしても重症化してから診療を受けることが多くなります。そういったことが重なり、長期入院に結びついていたという経緯もあります。しかも、診療報酬が普通の病床の3分の1と低かったため、看護師や医師が少なく、“安かろう、悪かろう”という差別的な医療が続いてきました。

このような状況の中でも、新たな入院患者さんは比較的短期間の入院になってきましたし、厚生労働省も諸外国に比べて圧倒的に多い精神科病床を削減しようという方針を立てました。しかし、削減する精神科病院の病棟をグループホームやアパートなどの住居に転換しようという計画が持ち上がってきたのです。

緊急集会開催に至る経緯を教えてください

病棟転換型居住系施設の提案は、今までにも何度か提起されてきました。私たちがこの計画に反対してきたのは、多くの仲間たちが精神科病院で長期入院となり、退院を諦めざるを得ない状況におかれてきたこと、実際には地域で必要な支援を受けられれば退院できる人たちが大勢いるという現実があるから患者さんは比較的短期間の入院になってきましたし、厚生労働省も諸外国に比べて圧倒的に多い精神科病床を削減しようという方針を立てました。しかし、削減する精神科病院の病棟をグループホームやアパートなどの住居に転換しようという計画が持ち上がってきたのです。

病棟転換型居住系施設の提案は、今までにも何度か提起されてきました。私たちがこの計画に反対してきたのは、多くの仲間たちが精神科病院で長期入院となり、退院を諦めざるを得ない状況におかれてきたこと、実際には地域で必要な支援を受けられれば退院できる人たちが大勢いるという現実があるからです。入院して治癒するのならばともかく、長期入院による施設病※などの弊害の方が大きいのです。しかも精神疾患の患者さんよりもさらに立場の弱い認知症患者の人たちが、病棟転換型居住系施設で長期入院させられていくことも懸念され、そうした動きを私たちは認めることはできません。

政府や病院経営者は、地域で受け入れる場所がないために病棟転換型居住系施設は現実的だという“よりマシ論”を主張していますが、やどかりの里のような支援機関は各地で増えていますし、支援があれば長期入院していた患者さんたちが地域で普通に生活できることは明らかになっています。受け入れ先がないというのは、国のまやかしなのです。

本来は、この問題だけでなく、教育現場などで精神疾患を正しく理解する土台や、医療や支援の総合的な仕組みをつくり、病状の重症化や家族の負担の問題を解決すべきなのです。何かひとつだけを改善すれば解決するものではなく、精神障がい全体への支援を見直すべき時であるのに、この計画が浮上し、しかも障害者権利条約に明らかに反する施設をつくるのに消費税増税分で設けられた基金の予算が使われることがわかり、これを契機として当事者や関係者が立ち上がったのが、今回の緊急集会です。

緊急集会の成果と今後の展望を聞かせてください

緊急集会の模様を多くの新聞が取り上げ、問題点を指摘した社説などを掲載してくれたことがひとつの成果です。日本弁護士連合会をはじめ、地域の弁護士会も声明を発表してくれています。今後も引き続き、こうした集会を各地で行っていく予定で、採択したアピールを日本中に発信し共有していくことに加え、自治体に対しても病棟転換して住まいをつくらせないでほしいと訴えていきます。

精神障がいは特殊なイメージがありますが、患者さんの数は非常に多く、誰でも発症する可能性はあり、決して人ごとではありません。そして、精神科病院は決して長くいるところではなく、まして生活するところではありません。これをきっかけに、精神障がいや認知症の人も含めて、安心して医療や福祉を受けられる仕組みを実現していくために努力したいと考えています。

普通の場所で暮らしたい!
「病棟転換型居住系施設に反対し、人権を守るための緊急アピール」概要

我が国における障害のある人たちの人権が重大な危機にさらされています。
現在、厚生労働省に設置されている「長期入院精神障害者の地域移行に向けた具体的方策に係る検討会」では、精神科病院の病棟を居住施設に転換する「病棟転換型居住系施設」構想が議論されています。
検討会は、長期入院をしている人たちが、地域で安心した暮らしを実現するための検討が目的だったのですが、余った病棟をどう使うのかという議論にすり替えられています。病院に入院している人が帰るべき場所は「地域」です。現在ある病棟に手を加え、看板を「施設」と架け替えてもそこは「地域」ではありません。 日本の人口は世界の2パーセントにすぎませんが、精神科病床は世界の2割を占めています。日本に重症の精神疾患が多発しているわけはありません。1年以上の入院が20万人、10年以上の入院が7万人、諸外国なら退院している人がほとんどです。
今すべきことは、長期入院を続けている人たちが、地域に帰るための支援態勢を整えることです。病棟転換型居住系施設ができてしまえば、入院している人たちは、病院の敷地内に留まることになってしまいます。そればかりか、統合失調症の入院者が激減し、余ったベッドを認知症の人で埋めようという経営戦略の一環として、次なる社会的入院が生まれていくことが危惧されます。
我が国は、本年1月に障害者権利条約に批准しました。障害者権利条約では「他の者との平等を基礎として」という言葉が35回述べられ、第19条では「障害者が、他の者との平等を基礎として、居住地を選択し、及びどこで誰と生活するかを選択する機会を有すること並びに特定の生活施設で生活する義務を負わないこと」としています。病棟転換型居住系施設はこれらに反し、国際的な非難をあびることになることは明らかです。さらに障害者権利条約を守らなくていいという前例をつくることにもなり、到底認めることはできません。もしもこのようなものを一旦認めてしまえば、日本の障害者や認知症の施策に多大な悪影響を及ぼすことは間違いありません。どんなに重い障害があろうと地域生活は誰にも侵すことのできない権利です。同時に家族に依存した支援のあり方を大きく変えていく必要があります。
病棟転換型居住系施設は、人権をないがしろにする「あってはならない施設」であり、日本の障害者施策、認知症施策全般の根幹を揺るがす愚策に他なりません。私たちは、この施設構想の検討をやめ、社会資源や地域サービスの構築を急ぎ、誰もが地域に普通に暮らすことができるよう強く求めます。

2014年6月26日
生活をするのは普通の場所がいい STOP! 精神科病棟転換型居住系施設!!
6.26 緊急集会 参加者一同
(病棟転換型居住系施設について考える会 ブログより)