第24回ヘルスケア関連団体ワークショップ
正しい情報を社会に 発信するために ヘルスリテラシーを磨く
2024年10月26・27日、ヘルスケア関連団体ネットワーキングの会(VHO-net)の第24回ワークショップが、対面方式で(会場:ファイザー株式会社会議室)開催されました。今回は「ヘルスリテラシーを高めるために〜ヘルスケア関連団体として重要性を考える〜」をテーマに、基調講演、分科会、全体討論など多彩なプログラムが展開されました。
VHO-netが一般社団法人となってから今回、3回目のワークショップでは、ヘルスケア関連団体のリーダーとして「情報を発信する力」が重要であり、発信するためには「正しい情報を見極める力」が必要であることから、「ヘルスリテラシー」がテーマとなりました。
当日は、VHO-net代表理事の森幸子さんによる開会の挨拶からスタート。森さんは「正しい情報を見極めることが必要な時代になり、治療の選択肢も増え、治療を選ぶために情報を理解することも必要になった。ヘルスリテラシーを高めて、社会に役立つ情報を発信できるように、このワークショップが活かされることを願っています」と述べました。
続いて、来賓挨拶としてファイザー株式会社代表取締役社長(当時)の原田明久氏が「日本特有のドラッグラグやドラッグロスの問題や、臨床試験の課題など、社会の中で、患者さんの声を聞くことはとても重要となっています。より良い医療環境づくりを促すために、この場を活用して活発な議論が行われることを期待しています」と歓迎の言葉を述べました。
その後、聖路加国際大学大学院看護学研究科教授の中山和弘さんによる基調講演、ワークショップ準備委員の岩本利恵さん(福岡看護大学)による趣旨説明を経て、分科会へ。5つのグループに分かれて、ヘルスリテラシーの「適切な情報を入手する力」「情報を正しく理解する力」「信頼できる情報か評価する力」「情報をもとに意思決定する力」という4つの能力に焦点を当てた議論が展開されました。
基調講演:ヘルスリテラシーを高めるために
聖路加国際大学大学院 看護学研究科 教授
中山 和弘さん
中山さんは、保健医療社会学、看護情報学が専門で、ヘルスリテラシー(健康を決める力)、意思決定支援、ヘルスコミュニケーション、これらを支え合うサポートネットワークなどをテーマに研究、教育活動を行っています。ここでは、当日の講演のポイントをご紹介します。
ヘルスリテラシーとは?
ヘルスリテラシーは、健康情報に基づいて意思決定ができる力、健康を決める力です。ヘルスリテラシーについて「入手」「理解」「評価」「意思決定」の4つの力を測定すると日本ではいずれも難しいと感じている人が多くなっています。そこで、情報の評価の方法をわかりやすくまとめたのが「か・ち・も・な・い」です。
意思決定には「直感的な意思決定」「合理的な意思決定」の2つのスタイルがあり、人は直感的な意思決定をする傾向があるため、合理的な意思決定=自分らしい意思決定をするために役立つプロセスが「胸(腹)に「お・ち・た・か」です。
日本では、評価し意思決定することを学んでいない人が多く、欧州に比べて、意思決定に自信がなく、それを回避し、衝動的・直感的な方法を用いることが多いと考えられます。自分で判断して決定できれば幸せであり、人生の選択の自由度が高い国は、幸福感も高くなります。「か・ち・も・な・い」と「お・ち・た・か」をよく行っている人ほど、ヘルスリテラシーが高くなっています。
意思決定について
自己決定ができることは、人間が生まれもった性質として幸せなことですが、情報提供さえすれば価値観にあった意思決定ができるとは限らないので、健康や医療のことで専門家と一緒に決めるシェアードディシジョンメイキング(協働的意思決定)が必要となります。
意思決定ガイド(ディシジョンエイド)とは、パンフレット、ビデオ、ウェブなどで健康や医療の選択肢についての情報を中立的に提供し、本人が価値観と一致したものを選べるツールです。情報提供する専門家による違いが生じにくく、選んだ理由・価値観が見える化され、家族や専門家チームで共有して、意思決定後のケアに活かせます。
意思決定ガイドの中心となるプロセスは、「お・ち・た・か」です。意思決定の方法で後悔しないためには、納得した意思決定、自分らしい意思決定をすることが大切です。
意思決定から見た健康とは、「からだ」と「こころ」と「社会」が密に重なったものです。
「からだ」体調管理や病気の予防をし、もし体調を崩してもうまく対処する意思決定ができる
「こころ」降りかかる問題や困難を乗り越えるために、人生の意味、生きがいが見出せるような自分らしい意思決定ができ、それを幸せだと感じられる
「社会」問題や困難に直面する人たちを孤立させず、その人らしい意思決定ができるよう互いに協力し、喜び合い、信頼関係をつくれる
市民・患者と専門家が協働して、ヘルスリテラシーという意思決定できる力を学び合い、どうすればうまくいくのか情報共有していきたい。みんなでつながって学び合うこのワークショップのような場があれば、情報源となり、良好な循環ができると思います。
分科会&グループ発表
情報の入手から社会への発信までヘルスリテラシーについて議論をする
中山和弘さんの講演を受けて、5グループによる分科会がスタート。議論の進め方として、ワークショップ準備委員会から5つのポイント(左囲み参照)が提示されました。2日目の午前中も使う長丁場。さまざまな意見が出され、議論が広がり、検討されました。各グループの発表内容を要約してお伝えします。
グループ1:正しい言葉で発信し、社会に対して公益性を示す
■情報の入手と理解、判断、活用(現状)
●新聞、テレビ、インターネット、診療ガイドラインなど9項目において、 情報入手のしやすさ、理解しやすさ、判断(信用度)、活用(患者団体で 発信の可否)、課題などについて整理
●入手〜診療ガイドラインは解読が難しく、医師により情報量の違いもある ●判断〜マスコミの情報をすべて信用しない
■正しい情報を理解・判断・活用するには
●情報入手の工夫〜可能な限り、第一次情報を確認する
●若い世代との連携〜ジェネレーションギャップが大きい
●適切なコミュニケーションの工夫〜一人では理解が難しく患者団体に 情報が集まることが重要
●医療者の意識を変える活動〜当事 者がその病気の専門家という自覚をもつ
■どう発信していくべきか
●役割の明確化〜正しい言葉で情報 発信し、社会に対する公益性の示し 方と目標設定が大切
●ヘルスケア関連団体は元気がもらえ、楽しいと思えることが重要。次世 代が参加しやすいよう、年代関係なくフラットな関係性をつくる
●発信先の拡大〜ネットワークの構築、患者団体、当事者ならではの 特性を活かした情報発信、生のストーリーを伝える
グループ2:家族だけで完結しない、信頼できる相談支援を
■情報の入手先
●医療機関、ヘルスケア関連団体、行政委託による相談窓口、行政 (保健所、市町村窓口etc.)
■理解・判断・活用するためには
●医師とのコミュニケーション〜入手した情報のリストアップ、家族だけ で完結しない、プラス1の信頼できる相談支援を
■活用するために
●市民公開講座など広く情報発信を進める。オンライン開催、オンデマン ド配信などを通して、他都道府県での考え方、具体例を理解すること ができる。メディアとはイベント時だけではない継続的なコミュニケー ションをとる
■今後の課題
●情報を届けにくい人へのアプローチ 〜本人も困りごとを把握できず、必 要な情報がわからない。そのため希 望になる情報はほしいが、情報の 活用を諦めてしまう
●どこの窓口に行くかでその先が変わる。ワンストップ窓口が必要では ないか。ヒューマンネットワークの重要性が今後の課題
■会員や会員外にどのように発信していくべきか
●会員向け〜地域学習会でのワークショップの内容を共有、疾患ごとに 患者目線のヘルスリテラシーウェブ版を作成、VHO-net所属団体の 好事例集の共有
●会員外向け〜ヒューマンネットワークの活用、メディアにVHO-netを 広く知ってもらう
グループ3:意思決定の経験者が振り返り、プロセスを言語化し、共有
■情報の入手と理解・判断・活用の問題点
●一人で調べることには限界がある
●正しい情報をみつけられる力が必要
●情報の出所が確かかどうか
●声の大きな人に引っ張られることがある
■正しい情報の入手、理解・判断・活用のためには
●ヘルスケア関連団体内の組織づくり〜情報の提供担当者を複数名置く●全国にネットワークがあることの利点〜地域で解決できないことは 全国区でカバーできる。一方で、エリアを限定した方が社会資源など の情報を共有しやすい場合もある
■正しい情報の入手、理解・判断・活用の方策
●団体の代表は、情報の精査と、別の選択肢を示す
●専門医の考えもさまざま〜複数 の意見を聞く。課題として、地方と 都市の環境の違いがある
●芸能人の発信〜情報の一つとして とどめる
■情報の入手から、会員や会員外への発信へ
●教育・啓発〜研修、勉強会、ウェブ
●情報発信〜ホームページ、機関誌での発信
●ヘルスケア関連団体、患者、医療従事者3つの相互関係で、正しい情報 に基づいたコミュニケーションが必要
●意思決定の経験者が振り返って、プロセスを言語化し、共有する〜 体験談とともに、共有することでコミュニケーションが膨らむ
グループ4:ヘルスリテラシーは、誰もが自分らしく生きやすい社会の実現につながる
■情報の入手と理解、判断、活用(現状)
●入手〜顧問の医師、講演会、会報誌、病院との協業、インターネット、海外論文●理解〜ネットで得た情報は、理解について個人差がある
●判断〜その情報が「正しい」と判断すること自体が難しい。エビデンス ベースで確からしさ、正しさを担保する
●経験者の体験を聞き、自分の判断基準としている。客観的な意見を求 める目的で、家族・友人の意見を求める
■情報の入手と理解、判断、活用するためには
●入手では「か・ち・も・な・い」を徹底して行う
●理解・判断では「お・ち・た・か」に個人の価値観が加わることが重要
●発信だけではなく、感想を聞くことで次の循環につなげていく
■ヘルスケア関連団体として、どう発信していくべきか
●患者の声(体験談)を活かした情報を入手し発信をしていく
●成功談だけでなく、失敗談も必要 で、そのバランスが重要
●VHO-netのワークショップで学ん だことを各団体へつなげていく
■社会への発信方法
●ハッシュタグで疾患を限定せずに 発信していく
●VHO-netシンポジウム(企画案) 〜VHO-netの強みを最大限活か し、多角的な視点を社会に向けて発信する
●ヘルスケア関連団体の活動や声を社会に向けて発信し、存在価値や活 動の重要性を示す。それは、VHO-net理念(第6条)に基づく「誰も が“自分らしく”生きやすい社会の実現」へとつながる
グループ5:誰も孤立しない・させないための受け皿になる団体になる
■なぜ、ヘルスリテラシーが重要なのか
●「か・ち・も・な・い」を使っての、情報の評価の重要性
●「お・ち・た・か」を使っての、合理的かつ自分らしい意思決定が大切 ●ヘルスリテラシーとは、自分の価値観をもつこと、すなわち人権の問題●その実行のためには、医師とのコミュニケーションが大事
■情報を理解・判断・活用してきたか(現状)
●個人として〜友人、知人からの情報に対して、都合の良い情報を入手しがち●団体として〜団体会員や社会に向けて、製薬会社、国立がん研究セン ター、厚生労働省、学会報告、診療ガイドラインなどで入手した最新情 報を発信してきた
■正しい情報の入手・理解・判断・活用するために
●孤立しないこと〜日頃から友人や知人などとの人脈づくり
●「か・ち・も・な・い」を活用して情報 を慎重に判断する
●個人に合ったチームとしての支援 体制をつくる〜個人でつくれるか が問題点。行政や法律上の問題が ある
■どう情報を入手し、発信していくべきか
●ファイザー発行のヘルスリテラシーの冊子の利用〜「か・ち・も・な・い」 「お・ち・た・か」の発信
●ヘルスケア関連団体は、孤立しない、させないために、会員、会員外 でも相談を受ける“受け皿団体”となる。正しい最新情報をキャッチし、 メディアなどを通して、社会に発信していく
〜閉会の挨拶から〜ひと味違う情報の質へ
VHO-net監事 伊藤 智樹 さん (富山大学人文学部教授)
今回も非常に広く奥の深いテーマをカバーする議論でした。その中で、鍵を握るだろうという2つを述べて、閉会の挨拶とします。
①ひと味違う情報の質〜
情報化社会が進む中で、多くの情報を見分けたり、取捨選択が難しい時代になっている。その中で、ヘルスケア関連団体が発信する情報であれば信用できる、一目置かれる存在になれば、存在感と貢献度は増す。そのうえで、情報の出典を必ず出すことはとても重要。情報源に読者が辿り着くことにより、検証もでき、豊かな理解を提供できるという公共的な意味合いもある。習慣的に、発信時には出典に注意することによって、情報のクオリティが評価され、その質が、ひと味違うというところまでもっていきたい。
②意思決定は簡単なことではなく、多くの部分は言葉にする難し さだと思う。シンプルに言って、話し合う場や、何か言いたいこと があるのではとの声掛けから始まる。そういった言語化の機会 を提供できるのがヘルスケア関連団体の役割であり、特徴であり、原始的な良さだと思う。これらを継続して、実りある活動を続 けられることを願っている。
〜コメントから〜全体討論
●希少疾患なので情報が少 ない。団体内で「論文探し 係」を設け、ネット上で論 文を探し、見つけたらその 著者につながりをつくって いく役割を担う。
●論文は『Google Scholar』というサイトを使用。海外の論文も 読める。英文を医師に読んでもらい、治療法の精査を行っている。
●学会には抄録があり、それを読むと大体の内容がつかめる。 わからない部分は医師に聞いている。
●災害時や、芸能人の疾患の情報は、それに影響されがち。その ようなときは「か・ち・も・な・い」を思い出すようにしよう。
●電話相談での情報は、患者団体にとっての宝物だと思う。 医療情報は学会から入ってきても、実際の患者の生活情報は さまざま。それらをカバーすることも患者団体の重要な役割だ と思っている。
●情報の種類には2種類ある。一つは医療情報、二つ目は個々 人の体験談としての生きるための情報=希望をもてる情報。 VHO-netのもっている力を社会を変える力にするために、 二つの強みを発揮していきたい。