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コミュニケーション・スキル・トレーニングに協力する
模擬患者の取り組み

コミュニケーション・スキル・トレーニングに協力する模擬患者の取り組み

医療者と患者さんとのコミュニケーションを円滑に進めていくために、医学教育の現場では、模擬患者を相手にした医療面接実習や臨床技能評価試験が注目されています。しかし教育効果が高い面接実習を行うためには入念な準備が必要なことから今回は、コミュニケーショントレーニングの土台となる、事前準備にスポットをあててご紹介します。

コミュニケーション・スキル・トレーニングとは?

コミュニケーション・スキル・トレーニング(CST‥Communication Skill Training)とは、聖マリアンナ医科大学救急医学の箕輪良行教授、松村医院の松村真司院長を中心に、臨床医や、医学教育・マーケティングの専門家など、多分野の人材が集まって開発した教育システムで、受講者となる医師が、模擬患者(SP‥Simulated Patient)と実際の診療場面さながらの医療面接(いわゆる問診)を行う実習です。

箕輪・松村の両氏はCST開発の動機を、「研修医ですら卒業前に受講しているコミュニケーション・スキルを、学んだ経験のないベテラン医師にもぜひ習得して欲しい、また、忙しい開業医が仕事を休み、受講料を払ってでも参加したいと考えるほど価値のあるトレーニングにしたい、という思いだった」と語っています。

実際のトレーニングは、患者になりきったSPが、あらかじめ設定しておいたシナリオに沿って、受講した医師と会話し、相手の態度・表情・言葉遣いなどをチェックし、その時の気持ちや印象を、面接終了後にその場で「フィードバック」として伝えます。SPが演技することにより、実際の臨床現場に近い形で実習ができ、また受講者はSPが感じた”患者“の気持ちや本音をすぐ聞くことができるため、大きな教育効果が期待できます。

効果的なトレーニングを実現するためには、模擬患者の協力が重要

しかしこうしたトレーニングを効果的に行うためには、実は本番以上に、その準備に労力を傾ける必要があることは、案外知られていません。そこで今回は、2008年6月15日に大阪で開催された「高槻臨床医療研修会」を実施するまでの事前準備を取材させていただきました。

事前準備は、CSTの主要メンバーによるシナリオ作りから始まります。今回は、研究会の趣旨や主催者の要望を反映し、「60歳女性、インスリン導入がすぐに必要な糖尿病の患者」という設定でシナリオが作成されました。

SPを務める人たちの選定やトレーニングも重要なポイントです。SPをプロの役者に依頼する方法もあるのですが、CSTではリアリティや説得力を重視し、乳がんの患者団体「あけぼの会」の協力を得て、本当の患者経験者にお願いしています。

実際のトレーニングに望む前に、SP候補の方々に対するコミュニケーション研修も必要です。なぜなら、研修なしでSPを演じた場合、フィードバックで受講生を責めるようなことを言って傷つけてしまい、教育効果が上がらないといったことがあるからです。

今回のSP予定者の下川恵子さんと宇田川光子さんは、「SPを演じることはとても難しいが、CSTによって何かを学びとって、コミュニケーションを大切に考える医師が少しずつでも増えていくことを願って参加を希望した」そうです。

さらに、シナリオの完成度を高めるために、CST主要メンバーが受講する医師役となってSPと面接を行い、言葉使いや検査数値といったディテールも含め、シナリオの整合性や現実性について、細心の注意を払って検討と修正を行います。

最後に、こうした面接トレーニングは受講者側にとってきわめて大きなストレスとなるため、よい雰囲気の中でスムーズに進行できるよう、プログラムについても分単位で細かく検討・調整する配慮を行って、やっと本番を迎えることができるのです。

取材を終えて

今回の取材から、本番のCSTを成功させるにはさまざまな立場の人の力と、入念な準備が必要であることを痛感しました。

最近は、患者さんとのコミュニケーションに対する医師の関心も高く、またSPとして医学教育にかかわる活動が患者団体の地域学習会などで話題になるなど、この分野への期待は膨らんでいます。

医療者全体にコミュニケーション・スキルの重要性を理解してもらい、その能力を身につけていただくにはまだまだ時間がかかりそうですが、CSTが、その実現のための1つの答えになる、そんな手ごたえを感じた取材でした。