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「医療、保健、福祉の領域にまたがり、
当事者のニーズに沿った支援を行う精神保健福祉士の仕事

「医療、保健、福祉の領域にまたがり、当事者のニーズに沿った支援を行う精神保健福祉士の仕事

埼玉県立大学保健医療福祉学部 教授 
高畑 隆 さん

複雑なストレス社会と言われる昨今、心の健康管理や精神障がい者の支援などに携わる専門職「精神保健福祉士」の存在が注目されています。今回は、自ら精神保健福祉士として精神障がい者の支援にかかわり、埼玉県立大学でその養成にも携わる高畑隆さんに、仕事や課題についてお聞きしました。

誕生して12年目の専門職 精神保健福祉士

精神保健福祉士(Psychiatric Social Worker 以下PSW)とは、精神保健福祉領域のソーシャルワーカーの国家資格で、1997年に誕生して以来、2009年2月現在で約3万4千人が社団法人日本精神保健福祉士協会(2004年設立)に登録されています。

高畑さんはPSWの職務を、「精神面における健康増進と同時に、精神障がい者に対して医療職とは異なる、社会福祉の視点で関与するところにある」と語ります。

精神科領域におけるソーシャルワーカーの歴史

こうした特徴は、精神科に関連する法制度を含めた歴史に由来します。もともと日本における精神疾患への対応の主流は早期発見・早期治療と入院促進でした。その中で、精神医療の現場に精神科ソーシャルワーカーという職種があり、またその一方で精神衛生相談員がいましたが、どちらも無資格でした。しかし1960年代に、精神病院における死亡事故のほか様々な問題が表面化し、患者家族会や関連団体から、患者さんの人権擁護の視点を持つ医療職以外の有資格者が必要ではないか、という声が上がり始めました。

その後、1993年に成立した障害者基本法で精神障がい者が障がい者として位置づけられ、1995年に精神障害者福祉法が改定されて精神障がい者を福祉の中で考える方向性が定まり、これらの変化に対応する職種として従来の精神科ソーシャルワーカーと精神衛生相談員を制度化して、1997年にPSWが誕生したのです。

その役割と特色

PSWの職域は、近年の高ストレス社会を反映して、精神疾患の患者さんが存在するところに限らず、大変広い領域で期待されています(図1)。しかし現状は必ずしも活躍の場が得られていないそうで、高畑さんは、「問題は、どこが雇用するかということです。医療機関では採用が増えていますが、他の領域で必要な専門職としてもっと認知されていくことが今後の課題です」と分析しています。

PSWはその成り立ちから、医療職ではなく精神福祉の立場の資格であり、精神障がい者のニーズに沿った社会復帰・自立支援を促進する役割と、医療の中で患者さんの人権を守る役割を担うという特色を持ちます。それは医師との関係にも現れており、指導は受けるが指示は受けない独自性が認められています。看護師、理学療法士といった医療スタッフは医師の指示を逸脱することはできません。しかし、PSWは社会福祉の領域の仕事なので医師からの指示ではなく指導という形になり、他の提案も可能な立場であるといえます。

今後の課題は、患者さんの立場で考えられる人材の育成

設立当初の5年間は、すでにこの領域で働いていた人々への移行措置によってPSWを取得できましたが、現在は、大学(短大含む)の社会福祉学科、心理福祉学科などで一定のカリキュラムを履修しなければ国家試験そのものが受験できない仕組みになっています。

このように制度が整いPSWが社会的に認知されるようになった今、今後の課題は、質の担保だと高畑さんは語ります。「PSWの養成には学校の履修科目以外に、発達心理学と脳生理学、システム論と価値論が必要と考えています。しかしそれ以上にPSWにはバランスのとれた価値観、相手への深い配慮といった資質が求められます。そのためには人間性を育む教育をどう取り入れるかが課題です。ですから、学生には、余暇や雑談、笑顔も大切にして、コミュニケーション力やプランニング力を培ってほしいとアドバイスしています。さまざまな経験や苦労を経てどう生きたいかと真剣に考えている患者さんの立場に立って、今だけでなくその人の人生という長いタイムスパンで、援助を必要としない真の自立を促す支援を行えるような資質を育てていくことが養成における課題であると思っています」

最後に、サポート時の重要なこととは

「私は、精神障がい者はもちろん、脳性麻痺、自閉症や身体・知的障がい児、稀少難病の方などさまざまな方々と、一緒に活動や遊びにいったり、一緒に生活したり、ピアサポートや障がい者スポーツなど多様な活動にかかわってきました。その過程で本人の状況をまず聞いた上で、望むようにサポートすることが重要と思っています。PSWは、援助ではなく支援、本人のニーズに基づいた意志創成を行うことが大切だと考えています」と語ってくれました。