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患者さんへの情報提供から、スピリチュアルケア、
看護師教育へ独自の観点から活動を広げ、よりよい医療を目指す

患者さんへの情報提供から、スピリチュアルケア、看護師教育へ独自の観点から活動を広げ、よりよい医療を目指す

慶応義塾大学看護医療学部教授・医学部 兼担教授 
加藤 眞三 さん

肝臓病専門医として「肝臓病教室」を提唱し、全国の医療施設に広げる一方、医療情報リテラシーのサイト「MELIT」運営や患者学、看護師教育への取り組みなど、幅広い分野での独自の活動が注目されている加藤教授。さらに日本におけるスピリチュアルケアの構築にも関わるなど、興味深い活動の広がりについてお聞きしました。

まず「肝臓病教室」について教えてください

私が専門とする慢性肝臓病は、慢性疾患の中でもおそらく最も難しく、奥深い疾患です。進行性で、経過中には発がんの問題がひかえており、患者さんはがんに対する不安にも悩まされますが、精神的なケアが確立されていません。しかも近年、インターフェロンや抗ウイルス剤などの新薬が開発され、また食道静脈瘤や肝がんに対する治療も何通りも開発されています。治療の選択に参加を求められる患者さんは数限りなく情報を必要としますが、現実には、多忙な肝臓外来では一人ひとりの患者さんに対して満足に説明する時間が取れません。

そこで、教室の形で知識や情報が伝えられないかと1992年に始めたのが、都立広尾病院外来での肝臓病教室でした。医療者側からの一方的な情報提供だけでなく、栄養士の参加や、患者さんとの質疑応答、患者さん同士のグループワークなどを取り入れて、ひとつのスタイルを確立し、1998年からは慶応義塾大学病院でも肝臓病教室を行うようになりました。

2002年に肝臓病教室が10年を迎えたことを機に、今まで自分が目指す医療に向けて実践してきたこと、その過程で考え気づいてきたことを著書『肝臓病教室のすすめ』にまとめました。それをきっかけに全国から100を超える施設が肝臓病教室を見学に訪れるようになり、現在、全国で124施設が肝臓病教室を実施し、ネットワークも構築されるようになりました。

こうした活動と、看護師教育はどのようにつながるのですか

肝臓病治療の一環としてアルコール依存症の患者さんの自助グループなどを研究する中で、私は、スピリチュアルケア(死に対する不安や恐怖、人生の意義や生きがいに関する悩みに対するケア)の重要性にも気づきました。日本では医療の中にスピリチュアルケアがほとんど存在せず、ようやく最近、ホスピスなどで普及し始めた程度ですが、これからの時代は宗教に頼らない日本独自のスピリチュアルケアが必要になってくることでしょう。

私自身は、日本でのスピリチュアルケアの普及に尽力されているワルデマール・キッペス神父(「特定非営利活動法人臨床パストラル教育研究センター」理事長)との運命的な出会いもあり、情報提供のあり方とスピリチュアルケアの研究と教育を私のライフワークにしたいと考えるようになりました。情報提供があってこそ、どう生きるかを考えることができるので、情報提供はスピリチュアルケアに不可分であり、どちらも看護師が重要な担い手になって欲しいと考えています。

高度化し専門化してきた現代医療の中で、患者さんの立場に立ってアドバイスし、適切な治療を選択するための助言ができる医療職は看護師であり、医療の現場で患者さんともっとも身近に接し、ケアを担うのも看護師です。医師と対等の関係で、患者さんの側に立ってケアを考えられる強い看護師が育てば、医師と患者さんの関係ももっとよくなるのではないか。看護の側からこそ医療全体をよりよく変えていけるのではないかと考えて、看護師教育に関わっています。

今後はどのような取り組みを考えられていますか

家族やムラを単位とするコミュニティが崩壊し、個人が自立しなければならない現代社会において、その人がその人らしく、病気であっても元気に生きていくためには、新たな人と人とのつながりを再構築するような活動が必要です。そして、現代のつながりの一つはインターネットです。インターネットのよい面を活かし、つながりの手段としてどう活用していくか、リアルとバーチャルのつながりをどのように実現させていくかが、これからの大きな課題だと思います。

ところで、私が肝臓病教室を始めた頃は、変わった医者という目で見られましたが、日本全国の150を越える施設に普及してきました。インターネットによる情報提供やスピリチュアルケア、看護師教育も、まだ社会からの理解は十分とは言えませんが、きっとこれからの時代の医療に重要なものとなると確信して、よりよい医療の実現に向けて取り組みたいと考えています。