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医療に患者の声を生かし、医療者と患者が理解を深め、医療をよりよく変えるために

医療に患者の声を生かし、医療者と患者が理解を深め、医療をよりよく変えるために

国際医療福祉大学大学院 大学院長 
開原 成允 さん

国際医療福祉大学大学院長の開原成允さんは、早くから「患者の声を聞く」ことを提言し、実際に患者の声を医療に生かす講座を開設するなど積極的に行動されてきました。ワークショップへの参加などVHO-netの活動にも大きな影響を与えてきた開原さんに、改めて患者団体とのかかわりや患者団体への期待を話していただきました。

今年、VHO-netのワークショップは10周年を迎えますが、初期の頃に、開原さんが「患者が積極的に声を出すことが医療によりよくするのに役立つ」と発言されたことが、参加者に大きな影響と刺激を与えました

まず、ワークショップに参加した理由から述べましょう。

私は医療の世界から日本社会を眺めてきましたが、日本社会は供給側と需要側に分けると、あまりにも供給者優先の世界であり、それが問題ではないかと感じていました。医療の世界ももっと患者さんの意見を聞くべきだと考えていたので、VHO-netの活動にとても興味を持ち、ワークショップに参加したのです。

その時の正直な感想は、どちらかというと失望の方が大きかったのです。それは、患者さんたちが自分たちの狭い世界の中で語り合っていることに失望したのです。ピアサポートとしてお互いに勇気づけたり、支え合ったりすることは非常に意味があることです。しかし、それだけでは社会に向けて情報を発信し、世の中を変える方向には向かわないのではないか、もったいないと思ったのです。もっと自分たちの経験を一般化して多くの人の共感が得られるような活動に結びつけていくことを考えてほしいと思い、その例として医学教育への参加を提案したと思います。

その発言をきっかけに、実際に医学教育へ参加するなど、新しい活動を試みる患者団体が増えてきました

私も、最近の患者団体の活動は変わってきたと感じています。まだ不十分だと思いますが、ピアサポート的な活動や、医療告発型の活動だけではなく、医療者や一般市民も共感できるような活動に取り組む団体が増えてきたことは、大変うれしいことです。

ところで、ワークショップでの発言は、実は、私自身にも大きな影響を与えました。発言した後、しかし、自分は何も行動してこなかったことに気づき、大いに反省しました。そこで、大学院で教育に携わる立場で自分の発言を実践するためには何ができるかと考え、患者さんが講師となる一連の講義を企画したのです。

それが2005年に行われた、乃木坂スクールの「患者の声を医療に生かす」講座となったわけですね

そうです。これからの医療と福祉を考える人を対象とした講座でした。患者団体の活動を一般化するために、ピアサポートや臨床試験、医学教育、医療者とのかかわりなどのテーマごとに患者団体に発表をしてもらいました。当初は、発表してくれる人がいるのか、聴講生は集まるのかと不安もありましたが、講義が始まると医療者やマスメディア関係者の参加も多く、反響もとても大きいものでした。

講座が成功裏に終わったので書籍としてもまとめましたが、この本も好評でした。さらに、教育的なテレビ番組も作ろうということになり、「当事者団体(患者会)の活動」として講義形式で制作し、今も講義に活用しています。

この乃木坂スクールの「患者の声を医療に生かす」講座をめぐる一連の活動により、立場の違った者が議論し、理解することの意義が実証できたと思います。こうした試みが拡がり、患者さんの声を聞くことが日本の病院の運営や医療行政に浸透するとき、私は真の意味での日本の医療の改革の道が開けると思っています。

ところで、患者団体の活動の中で、不十分な部分とはどこだとお考えですか

たとえば中央社会保険医療協議会(中医協)などに市民の代表として患者団体がもっと加わり、政策提言もできる方向にするためにはどうしたらよいかといったことも議論してほしいと考えています。

今、医療崩壊や医療過疎の問題が起きていますが、地域医療を支えようと活動している市民と患者団体が連携すると、情報発信するときの幅が広くなるのではないかと思います。患者も市民も、供給者・需要者という関係でいえば、同じ需要者側ですから、患者団体が地域医療を支える問題にもかかわり、需要者の意見をどう政策に反映させていくかという視点に立てば共通項があると思います。そのために、たとえば、ワークショップで地域医療を支える活動をしている人の講演を企画し、互いに理解を深めることなどが必要ではないかと思います。

最近、医学用語を患者にわかりやすく言い換える活動にも取り組まれていますね

医療者が使う医学用語について、どういう言葉が患者さんはわかりにくいのかを患者団体の協力を得て調査し、医療者・患者双方が納得できる共通の医学用語を普及させていきたいと考えています。

私は、ものごとを改革していくためには、2つの異なった力のバランスが必要であると考えています。医療の場合には、医療の供給者側と医療の需要者側が、その2つの力になるのが理想です。供給者と需要者は立場が異なっているからこそ価値があり、立場が違えばこそ議論することに価値があり、その中から相手の立場も理解した、双方が納得できる改革案が生まれてきます。医療者と患者を含めた市民の双方が話し合い、相手の立場を理解しながら、日本の医療をよりよい方向に変えていくことができればと願っています。

開原 成允 氏 プロフィール
国際医療福祉大学大学院 大学院長。
東京大学医学部教授を定年退官後、国立大蔵病院長、医療情報システム開発センター理事長などを歴任。東京大学名誉教授。専門は医療情報学、医療経営管理学。

■主な著書:『医療の個人情報保護とセキュリティ』(共著 有斐閣)、『21世紀の「医」はどこに向かうか医療・情報・社会』(共著、NTT出版)、『患者の声を医療に生かす』(共著、医学書院)など