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プライマリ・ケアの立場から、幅広い視野で医学教育や研究にも取り組む

プライマリ・ケアの立場から、幅広い視野で医学教育や研究にも取り組む

松村医院 院長 
松村 真司 さん

ヘルスケア関連団体ネットワークの会(VHO-net)のワークショップでもおなじみの松村真司さんは、生まれ育った地元で地域医療に取り組みながら、医学教育や医師向けのコミュニケーション研修にかかわるなど、独自の活動を展開されています。そこで、今回のWAVEでは、かかりつけ医として、病気の治療だけでなく、人々の健康な暮らしや生き方をサポートしたいと語る松村先生をご紹介します。

松村先生はかかりつけ医、研究者、医学教育者として多彩な活動をされていますね

松村医院は父が開院した診療所で、10年前に2代目院長となりました。内科の病気だけを診るというのではなくて、どんなことでも相談に乗るというスタンスで地域に密着し、患者さんに近いところでケアすることを最重視しています。最近は地域の高齢化が進み、在宅患者さんが増えてきたので、往診や訪問診療が増えて忙しくなりました。総合診療が専門であるため、難しい問題を抱えるケースを担当することも多いのですが、難しいからこそやりがいも感じます。チームを組む看護師さんたちも地元出身者が多く、地域への愛着を感じながら取り組んでいます。

研究者としては、終末期医療とコミュニケーション、医療の質評価などが研究テーマで、一般の人が最も触れ合うにもかかわらず最も注目されていない「かかりつけ医への満足度」などの研究をしてきました。また、箕輪良行先生(聖マリアンナ医科大学教授・『まねきねこ』26号掲載)が手がけられている医師向けのコミュニケーション研修を講師スタッフとしてサポートしています。

患者と医師の関係、医師のコミュニケーションに注目されたのは、何がきっかけですか

大学病院や急性期の病院に勤務している時に、患者さんへの医師の対応に問題があると感じました。その一方で、自分自身、医師になっていきなり毎週のように人の死を経験したり、救急で救命した患者さんに人工呼吸器で生きていたくないと言われたり、困難に直面することが続き、患者さんへの対応や終末期医療について学びたいと思ったのです。

患者さんとのコミュニケーションが難しいのは、たとえば、本人は嫌がっているが胃瘻造設手術をしなければ施設が受け入れられないというような、個人の気持ちや価値観と、社会的な観点がずれている場合です。そのずれが大きいほど、落としどころを見つけることが難しくなってきます。また、患者さんは本当にさまざまで、その背景や困難も千差万別ですから、それを理解し、対応していくのはやはり大変だと感じています。

医師向けのコミュニケーション研修をサポートされているのも、コミュニケーションの重要性を強く感じられているからですね

そうですね。診療での患者さんとの良好なコミュニケーションというのは、プライマリ・ケアの基本中の基本であり、コミュニケーションそのものが医療の質を決定する重要な要素と考えてきたので、私の経験や学んできたことを活かしたいとサポートに参加しました。

最近の医学生は医療におけるコミュニケーション・スキルを学びますが、従来は学ぶ機会がなく、コミュニケーション能力は医師個人の資質に左右されてきました。医師としては優秀なのに、コミュニケーション・スキルを知らないためにトラブルになったり、患者さんに悲しい思いをさせたりするお医者さんは「もったいない」と思うのです。

コミュニケーションが大切だという気づきは現場で患者さんと接触し、フィードバックをもらわないとわかりません。ですから患者さんにも、よい点はほめ、悪い点は指摘してほしいですね。コミュニケーション・スキルの重要性はかなり浸透し、若い世代ほどきちんとトレーニングを受けているので今後はもっと改善されると期待していますが、社会の変化のスピードに対して、医学教育の変革のスピードが遅すぎるので、のんびりはしていられないと思っています。

箕輪先生や、医師向けコミュニケーション研修に協力しているあけぼの会(乳がんの患者団体)を通じて、VHO-netのワークショップに参加されるようになったのですね

ふだん患者団体とのつながりはあまりないので、ワークショップで稀少難病などの患者さんと実際に話をする機会が得られたことはとても貴重な経験でした。患者さんも、情報のある人とない人に二極化しています。私がかかりつけ医として接するのは情報のない人が多いので、必要に応じて患者団体などにつないでいきたいですね。

VHO-netの皆さんには社会に対してどんどん発信してほしいと考えています。それも、社会的に注目されるようなことだけではなく、さまざまな病気の患者さんが共通して直面する日常的な問題を発信していければといいなと思います。違う病気の人が歩み寄り、横断的に発信することはVHO-netだからこそできることです。そして、若い世代の医師の教育にも積極的にかかわってほしいと思っています。

かかりつけ医として地域医療の最前線に立ちながら、医学教育や研究にも取り組まれている先生の、医療に対する思いを聞かせてください

医療の水準が上がって機械化や検査技術が進み、大規模な病院はシステム化されてきました。一方、地域の診療所は医療水準という点で取り残され、急激に高齢化が進んで変貌した社会構造にも対応できていません。地域での問題が複雑になってきたのに、地域住民とのつながりが希薄になり、行政や他の医療施設との連携も遅れ、患者さんや社会のニーズとのギャップが広がっています。この10年で社会の構成が相当変わってきているのに、かかりつけ医をはじめとして医療の世界は対応が遅いと感じています。

そして、病や死ぬことも生活の一部なので、タブー化しないでもっと自然に接することができればよいと思います。地域の結びつきが弱まり、お年寄りや病気の人との自然な付き合いがなくなってギスギスしている気がします。医師も患者さんもお年寄りも、もっと自然に付き合えるようになれば、住みよい世界になっていくのではないかと信じて、日々の診療や研究に取り組んでいきたいと思っています。

松村 真司さん プロフィール
東京都世田谷区出身。北海道大学医学部卒業後、東京慈恵会医科大学での初期研修、国立東京第二病院総合診療科勤務を経て、総合診療/プライマリ・ケアでの臨床研究を目的に東京大学大学院内科学専攻博士課程でまた、UCLA総合内科客員研究員として終末期医療、かかりつけ医への満足度などの日米比較研究に従事。その後東京大学医学教育国際協力研究センターで東大医学部の医療教育改革の仕事に従事。2001年より松村医院2代目院長。