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臨床心理士の立場でVHO-netの活動に参加し、より良いピアサポートについて講演やアドバイスを行う

臨床心理士の立場でVHO-netの活動に参加し、より良いピアサポートについて講演やアドバイスを行う

東北福祉大学総合福祉学部福祉心理学科 教授
東北福祉大学大学院総合福祉学研究科 教授
臨床心理士
渡部 純夫 さん

東北福祉大学において臨床心理学・福祉心理学の教育に携わる傍ら、臨床心理士として、東日本大震災の被災地で専門職など支援する側のサポートにも取り組む渡部純夫さん。2010年からVHO-netの活動にも参加し、東北学習会やヘルスケア関連団体ワークショップでピアサポートをテーマに講演を行うなど、積極的に活動しています。今回のWAVEでは、渡部さんに臨床心理士の果たす役割やVHO-netのピアサポートについて語っていただきました。

まず、臨床心理士について精神科医との違いも含めて教えてください

臨床心理士とは、臨床心理学に基づく知識や技術を用いて、人間の心の問題にアプローチする心の専門家です。精神的な疾患や成長の問題、人間の関係性の問題、さまざまな悩みや苦しみなどの心理的な問題を抱えた人に対して、心理療法を基本として援助をしていくのが臨床心理士の役割です。臨床心理学という学問をベースにしているところが、精神医学という医学分野の学問をベースにしている精神科医とは異なります。精神科医は、たとえば統合失調症のようにその人を脅かすものは排除し、神経症の場合は不安を取り除くということが治療となります。それに対して、臨床心理士は不安傾向も含めてその人自身だととらえ、取り除くのではなく、そういう傾向を持って生きるということはどういうことなのか、その意味合いを考え、かかわっていくのが特徴です。

臨床心理士として具体的にどのような活動をされているのですか

たとえば東日本大震災の被災地では、震災直後から臨床活動をしている人たちのスーパーバイズ(カウンセラーのためのカウンセリング)を行い、今も各地でボランティア組織や専門家組織の人たちの心のケア、メンタル的な問題に対応しています。本来、人は新しいコミュニティをつくり気心の知れた人たちとの場ができれば、そこが“居場所”になり、安心・安全を感じるものです。しかし、仮設住宅は“居場所”にならず、被災地の皆さんの心の傷は深く、なかなか癒えません。そして、行政の職員や教職員、PSW(精神保健福祉士)、保健師、看護師など地域に根ざして住民の心のケアに携わっている人たちは、傷ついた人たちの心を受け止めるがゆえに自分たちも傷ついているのです。そこで私は、支援にかかわる側の人たちに対するある種の浄化作用を狙い、面接法で日頃のサポートの中での苦労や思いをじっくりと聴いて、その後、箱庭療法を行っています。箱庭療法は、砂箱の中に人形やおもちゃなどのアイテムを自由に配置することで、その人の心理状態を分析し、またその砂遊びのような行為そのもので心を癒す方法です。支援する人たちと私が深いところでつながり、心を開放して話すことで元気を取り戻してもらうという取り組みを行っているのです。

VHO-netの活動にかかわることになったきっかけや感想を教えてください

2010年に、同じ東北福祉大学 教授の阿部一彦さんを通じて東北学習会で講演してほしいと言われたのが最初です。その時は障がいや病気のある人と接する時の心構えや、相談の際に心がけたいことなどを話しました。その後、東北学習会でピアサポートをテーマに講演し、また昨年はヘルスケア関連団体ワークショップで、ピアサポートの中でも特に相談を中心にかかわる「ピアカウンセリング」について講演しました。

VHO-netの場では、私自身の考え方が不十分だったところや、あるいは知らないで済ませてきたことに気づかされることも多く、私にとって臨床心理士の仕事を深めていくのに良い刺激をもらっています。元気な人が多い印象を受けますが、心理的なメカニズムの中で、悩みやつらさなど何らかのプロセスがあってこその明るさ、元気さだと感じています。それがその人の生き方やスタンスとなり、尊重すべきものとなっていることを興味深く思いながら参加しています。

専門家の立場からヘルスケア関連団体のピアサポートをどのようにとらえていますか

ピアサポートについての皆さんの意気込みや気持ちはよく理解できますし、サポートに携わるにあたって必要な“大切なもの”を持っていると感じます。しかし、「何とかしてあげたい」という気持ちは大切ですが、的確にピアサポートを行っていくためには、それだけではうまくいかないことも多いものです。自分自身が相手の思いを受け止められるだけの覚悟と技術が必要ですし、リスクもあります。サポートしながら、「ここは自分の領域ではない」「限界だ」と感じたら、誰かにバトンタッチすることも必要です。ピアサポートの前提として、自分の限界を知っていること、自分を客観視できること、謙虚さが必要だと思います。

また、ピアサポートの理論やスキルを学んだら、次は事例を集めて研究することでスキルアップしてほしいと考えています。VHO-netの場合はメンバーの皆さん自身も当事者であり、自分の問題とオーバーラップし、相談内容を事例としてまとめることに抵抗を感じる方もいると思います。臨床心理学領域では事例を取り扱う時に、問題の本質にかかわらない範囲で年齢や性別、環境などを置き換えて個人を特定できないようにしていますので、こうした手法も参考にしていただきたいですね。大切なことは、「何もできないが、聴くことはできる」という謙虚な姿勢で信頼関係を育むこと、そしてサポートを受ける側もする側も一人の人間として主体性を持っていることを認識して、大切にすることだと思います。

最後に、これからのVHO-netにどのような活動を期待されますか

VHO-netを見ていて思うのは、活動を始めて10年以上経ち、一つの区切りというか、ある種の“揺れる時期”を迎えるのではないかということです。仲間づくりができて組織がある程度まとまってくると、ルールづくりが必要になり、何を求めていくかという方向性や、現状の分析が必要になってきます。そこにシビアさやリアリティをしっかりと取り込むところに発展性がある。揺れを共有し、困難を乗り越えることでこそ、次の発展があるのだと思います。皆で協力しなければいけない、つながらなければいけないと実感できたら、さらなる段階に進めるはずです。そして、次の段階として私から提案するとしたら、自分たちがどう成長していくかというところに、“研究”という視点を持ち込むことも有効ではないかということです。「学ばせてもらう」「教えてもらう」という“学習会”の姿勢から一歩進めて、皆が対等に、より主体的に学び、究めるという意味での“研究会”という姿勢です。

現代は、人間の優しさが下降している時代だと思います。本来、人を大切にするということは、自分を大切にすることだという感覚がどこかにあったはずですが、最近、そのつながりが粗末になり希薄になってきたがゆえに、人を大切にすることも自分を大切にすることも薄れてきたのではないかと思います。それを回復させなければいけない。つながっていくということは相手に依存したり甘えたりすることではなく、お互いに自立した存在として向き合っていくことだという感覚が必要です。自分をしっかりと持ち、相手も自分も大切にできる、そんな世界をVHO-netの皆さんにも目指していただきたいですね。

渡部 純夫さん プロフィール
プロフィール福島県会津若松市出身。筑波大学大学院教育研究科修士課程修了。神奈川県総合リハビリテーションセンター、総合会津中央病院臨床心理室長、会津大学・福島大学・郡山女子大学・山形大学・桜の聖母短大等の非常勤講師、東北福祉大学専任講師、准教授を経て現職。日本産業カウンセラー協会東北支部スーパーバイザーの資格も持ち、福島県立医大心身医療科臨床心理士養成コース顧問、福島大学付属小学校評議員、福島県警察本部委嘱被害者カウンセラーなどとしての活動も行う。