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多様な分野の研究者や患者団体とかかわりながら、医学教育や遺伝カウンセラーの養成など幅広い分野で活躍する

多様な分野の研究者や患者団体とかかわりながら、医学教育や遺伝カウンセラーの養成など幅広い分野で活躍する

千葉大学大学院医学研究院 環境健康科学講座公衆衛生学 教授
羽田 明 さん

千葉大学において公衆衛生学の研究や医学生の生命倫理教育に携わる一方、小児科医として遺伝的な病気や障がいのある子どもの診療や遺伝カウンセリング、サポートなどにも幅広く携わる羽田明さん。医学教育の中で患者講師による授業をカリキュラムに組み入れて実施するなど、患者・家族や患者団体とのかかわりも深い羽田さんに、さまざまな取り組みと患者団体に期待するところなどを語っていただきました。

公衆衛生学では、どのような研究や活動に取り組まれているのでしょうか

公衆衛生学は、医療と目指すところは同じですが、個人ではなく、集団全体の健康を良くするにはどうしたら良いかという立場から考える学問です。たとえば、集団の免疫力を上げておくと、免疫力の弱い高齢者や小学生の死亡率も下がるという観点から、国の医療や自治体の政策を考えていくわけです。具体的には、医療費に無駄がないかという分析や、子ども時代の社会的、経済的要因がどのように健康行動に影響するかなどを研究しています。

ほかにも、子どもの川崎病の研究にもかかわっています。川崎病は日本人に多く、感染症に似ていますが、きょうだいでかかりやすいなど何らかの遺伝的要因があると考えられています。最近、関係する遺伝子がわかり、遺伝子の関与を抑制する薬の治験を行っているところです。

また、日本ではまだ予防医学への取り組みが遅れていることから、これからの予防医学を推進する先進予防医学専攻の博士課程を設け、専門家を育てていこうと、千葉大学と金沢大学、長崎大学とで連携して大学院を設立する計画があり、今はその準備に追われています。

小児科医として、遺伝外来での診療にも携わっているそうですね

千葉県子ども病院の遺伝科と千葉大学医学部附属病院の遺伝子診療部で、遺伝的な病気や障がいのあるお子さんとご家族に対して診療を行い、遺伝カウンセリングや福祉面でのサポートなどを行っています。ほかには、日本人類遺伝学会と日本遺伝カウンセリング学会による臨床遺伝専門医制度と認定遺伝カウンセラー制度の委員長と委員を務め、遺伝カウンセラーの養成にも携わっています。遺伝カウンセラーは、最新の遺伝医学の知識を当事者や家族にわかりやすく伝え、その方たちが判断するための支援を行う職種で、近年、必要性が理解されニーズも高まってきています。また、専門的な医師の養成も急務ですので、臨床遺伝専門医が日本専門医機構の専門医として登録できるよう改革を進めているところです。専門的な活動ができる医師とカウンセラーによって、日本の遺伝医療を充実させることが目標ですね。日本では、遺伝病に対する正しい理解が遅れている一方、遺伝子検査が急速に広まり、不安や悩みを抱えている方が多いので、こうした状況を改善していきたいと考えています。

そうした活動の中で、患者団体とはどのようにかかわっているのでしょうか

遺伝外来では、ダウン症候群やウィリアムズ症候群、プラダー・ウィリー症候群など関連する患者団体にもかかわり、同じ病気の子どもを持つ親と交流したいという患者さんには積極的に患者団体を紹介するようにしています。ただ希少難病の場合は、患者団体がない場合もあります。患者団体をもたない当事者が社会で声を上げることはそう簡単ではありません。また、患者団体を立ち上げることを患者さん自身や家族に任せるのは無理があります。しかし、そうした人たちの声こそすくい上げていくことが必要だと思います。そこで、私たちが何らかの枠組みをつくるなどの支援をしていく必要があると考えています。

障がい児の場合、小さい時はお母さんたちの悩みや直面する問題に共通する部分が多く、お互いに教え合ったり支え合ったりする活動は有意義です。ただ一人ひとりの発達段階が異なり、成長につれてニーズも多様になってくるので、まとまって活動していくことが難しくなってくる面があります。また、私たちが介入しすぎて当事者団体としての自立を妨げてはいけないし、私たち自身にも異動や定年などがあり永続的に支援することが難しい面もあるので、どのような関係性を築くかが課題だと感じています。

VHO-netの活動にかかわることになったきっかけを教えてください

大学では医療における倫理的、法律的な問題に取り組む生命倫理のカリキュラムに患者講師による授業を組み入れています。講師を引き受けてくださった患者団体の皆さんともつながりができ、その縁で、VHO-netの関東学習会やワークショップにも参加するようになりました。

多様な患者団体がつながり、まとまっていくという試みはとても興味深く思いました。さまざまな意見があって面白いですし、患者さんや家族が声を上げる場所をつくることはとても重要だと思っています。多様な団体をどのようにまとめていくかというところに興味があったのですが、世話人などのキーパーソンがサポートしながら、全体が緩やかにつながっていくあり方に「なるほど」と思いました。企業が後援していることも、ネットワークの永続性という面からメリットが大きいと思います。やはりネットワークは必要だと思いますから、さまざまな立場の違う団体がともに活動することは大変だと思いますが、続けていっていただきたいと思います。

患者団体への期待や、医学教育に携わる立場からの展望をお聞かせください

当事者の声を政策につなげていくアドボケートも重要だと考えていますが、現状では、患者団体にそこまでを求めるのは難しいので、私たちやVHO-netなどがかかわり支援していく必要があると思っています。患者団体には大いに期待していますが、どうかかわっていくか、どのようにその存在意義を活かしていくかはまだ模索中というところです。また、遺伝子検査が容易にできるようになった社会において、正しい遺伝の知識をどのように若い世代に教育し、一般の理解を深めていくか。科学の発展が無駄にならず、有益になるような仕組みをつくりたいと考えています。

医学教育については、生命倫理の問題を含めて、遺伝や難病などの課題に対してもきちんと対応できる医師を養成していくことが目標です。倫理審査の仕組みも整い、方向性としては進んでいると思いますが、柔軟性をもち、医療の発達、変貌する社会情勢や倫理観の中で、自分で考え判断できる医師になってほしいと考えています。医療倫理は複数の学問分野にかかわる学際的な領域で、医療関係者だけではなく、すべての人が考えるべき課題です。生殖医療や再生医療、遺伝医療など医学研究の進歩とともに、予防、治療など医療における可能性は大きく広がってきました。こうした医学研究の成果をどのような仕組みで社会に還元していくか、今後も考えていきたいと思います。

羽田 明さん プロフィール
熊本大学大学院医学研究科卒業。小児科(研修医)、神奈川県立こども医療センター遺伝科(シニアレジデント)、国立岡山病院小児医療センター(チーフレジデント)、ハワードヒューズ医学研究所(ユタ大学)、名古屋市立大学医学部講師、北海道大学医学部助教授(公衆衛生学講座)、旭川医科大学教授(公衆衛生学講座)などを経て、2002年より現職。