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看護教育を軸足に、患者団体活動などでの多彩な経験を通して
研究テーマを探り、患者のより良い環境づくりにつなげていく

看護教育を軸足に、患者団体活動などでの多彩な経験を通して研究テーマを探り、患者のより良い環境づくりにつなげていく

聖マリア学院大学 看護学部 助教
谷口 あけみ さん

大学の看護学部で教員をしながら、あすなろ会(若年性特発性関節炎親の会)の九州地域リーダー、くまもとぱれっと(長期療養中の子どもと暮らす家族の会)世話人、熊本難病・疾病団体協議会(以下、熊難協)副代表、VHO-net の運営委員など、さまざまな団体の要職をこなす谷口あけみさん。ご自身の子どもの発病、患者団体とのかかわり、さらに2016年の熊本地震発生を機に、難病患者と災害とのかかわりへと研究のテーマが広がっています。

看護教育にかかわった経緯と現在の大学での講義内容について教えてください

大学の看護学部で基盤臨床看護学領域(看護学の基礎的な知識や実践力を学ぶ教科目群として、基礎看護・成人看護急性期および成人看護慢性期の領域を統合した教科領域)に属し、看護について教えています。具体的には点滴、注射、体の拭き方などの技術、疾患別での看護手法などを指導しています。

看護学部には同じ看護師になるなら、より高い目標をもって、認定看護師や専門看護師を目指したいという意識の高い学生が数多くいます。私は熊本大学教育学部特別教科(看護)教員養成課程を卒業しました(現在は閉課程)。学生時代に経験した高校での教育実習がとても楽しくて、看護教育にかかわっていきたいと思い、高校の衛生看護科に教師として就職しました。

ただ、臨床経験のないままに学生に教えるのはどうかと悩み、1年で退職し、熊本大学医学部附属病院第2外科(現・消化器外科)で看護師として3年間の臨床経験を積みました。その後、看護大学の教員に再就職しましたが、第2子の妊娠を機に退職。自分のライフプランとして、大学院での修士号取得と子育てを両立させる生活にシフトしました。そんな中、第2子の娘が2歳になる前に、若年性特発性関節炎(以下、JIA)と診断されました。

看護を教える立場から難病患児の親に---どのような心境の変化がありましたか

医学教育に携わりながらも、やはり母親です。診断された時は、これからどうしていけばいいのか不安で、先々のことばかり心配していました。当時、JIAの情報は今ほど多くはなく、それでもインターネットでいろいろと調べ、あすなろ会(若年性特発性関節炎親の会)に辿り着きました。「このお子さんの症状、うちの子と同じだ。どのようにして乗り切っているの? 家族はどう接しているの?」。そんな疑問にきめ細かく対応してくれ、とても救われました。

治療面は信頼できる専門医がいましたが、生活面では幼稚園や学校生活の中で、どうすれば先生や友だちに病気のことを理解してもらい、うまくやっていけるのだろう。そんなことを悶々と考えていた時、自分のホームページにJIA患児の症状や日常を伝えるお話を掲載しました。それを2008年に、あすなろ会が『ポンちゃんとリウマチマン』という絵本にして発行してくれたのです。地元の図書館や医療・福祉施設などに置かせてくださいと訪ねている中、熊本県難病相談・支援センターで、当時所長だった陶山えつ子さんに出会いました。VHO-netを紹介され、2009年には陶山さんの呼びかけで、現在の「くまもとぱれっと(長期療養中の子どもと暮らす家族の会)」が発足。疾患に関係なく長期療養を余儀なくされている子どもたちや、そのきょうだい児、家族がおしゃべりできる場の提供や交流活動を続けています。さらに熊難協にもかかわるようになり、1冊の絵本からいろいろな人と知り合い、つながっていくことができました。

今、へるす出版社の『小児看護』という月刊雑誌で、6年近く「看護系絵本堂」という、連載頁をもっています。病気や障がいを扱った絵本はけっこうたくさんあります。毎号1冊紹介し、それを小児看護の視点で解説する。絵本は子どもにも大人にも訴える力をもっていて、病気を伝えるにはとても有効な手法だと思っています。

そんな活動の中で谷口さんの研究テーマに変化はありましたか

子どもの病気が診断される前までは、学生の看護教育にかかわることが大きなテーマでした。

それ以降は、患者団体ともかかわるようになり、子どもを支える家族や団体にテーマが移っていき、熊難協とのかかわりでは、指定難病の成人や小児が大きな軸として入ってきました。そして2016年4月に発生した熊本地震後は、難病患者と災害とのかかわりが新たなテーマとして加わりました。地震発生から4、5ヶ月後に調査に入り「災害後の関節リウマチ患者の心身の変化 |熊本地震後調査より|」の論文(熊本保健科学大学 佐川佳南枝氏との共同執筆)を九州リウマチ学会誌に投稿しました。

熊難協では、2017年5月に「指定難病患者が熊本地震後に困ったこと」に関する調査・報告書をまとめ、そのアンケート結果は、同年12月に制作された行政(熊本県)との協働による「難病患者・家族のための災害対策ハンドブック」に反映されています。

谷口さんにとってVHO-netはどんな役割を果たしていますか

たとえば、くまもとぱれっとの世話人をしていると、一人で空回りしていないかなどと悩みます。VHO-netの学習会やワークショップに行くと、いろいろなアドバイスをくれます。自分は頑張っているつもりでも、足もとにも及ばない大車輪級の人がたくさんいます。

自分の患者団体では会員さんに主体的に動いてほしいと思っていながら、VHO-netでは「私、お客さんになっていない?」と気づかされます。みんなで一緒に動かしていく活動や、お互いにやっていて良かったねと言えると、得るもの、充実感は大きい。私にとってVHO-netは、自分を振り返り、気を引き締める場。とても刺激的です。

私は突き進んでいく、いわゆるカリスマリーダーではありません。でも、「巻き込まれ力」はあるのではないかと(笑)。巻き込まれそうになると避ける人もいます。逆にすべてに巻き込まれていると身がもちません。自分なりに選択して、巻き込まれている、という感じでしょうか。

看護教育についてのやりがいと今後の抱負についてお聞かせください

教員という職種が好きなのだと思います。わからないと悩んでいた学生が、わかったという顔になる、そういう瞬間があって。私だけの力ではなく、いろいろな要素がからみあって学生が育っていく。

個人差はありますが、学生は成長するという大前提が私の中にあって、そんな成長にかかわれることがやりがいです。今は仕事に軸足を置きつつ、その内容や研究テーマから、さまざまな患者さんの治療・療養環境、社会での生き方が少しでも改善できるようにつなげていければと思っています。

谷口 あけみさん プロフィール
熊本大学教育学部特別教科(看護)教員養成課程卒業。九州保健福祉大学大学院保健科学研究科修士課程修了。2017年から現職。あすなろ会(若年性特発性関節炎親の会)九州地域リーダー、くまもとぱれっと(長期療養中の子どもと暮らす家族の会)世話人、熊本難病・疾病団体協議会副代表、NPO法人熊本県難病支援ネットワーク理事。