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患者さん一人ひとりの大切なことを教えてもらっている
そんな感謝の気持ちをもって、難病相談に向き合っています

患者さん一人ひとりの大切なことを教えてもらっている
そんな感謝の気持ちをもって、難病相談に向き合っています

群馬大学医学部附属病院<br>難病相談支援センター<br>難病相談支援員<br>(保健師・認定難病看護師)<br>川尻 洋美 さん 群馬大学医学部附属病院
難病相談支援センター
難病相談支援員
(保健師・認定難病看護師)
川尻 洋美 さん
群馬大学医学部附属病院に設置されている、群馬県難病相談支援センターで日々、難病患者・家族と向き合う川尻洋美さん。一方で、厚生労働省の指定研究班でピアサポート研究に従事した経験をもち、2023年度からは国立保健医療科学院が主導する、アプリを併用した難病を含む障がい者全般への就労支援に関する研究班で、研究分担者を務めるなど、多彩な活動を行っています。「患者と話すことで元気になり、勇気をもらえる、それが仕事の原動力です」と語る川尻さんが考える、難病患者支援についてお話を伺いました。

 
 
保健師、難病相談支援員に至った経緯について教えてください

私は群馬大学の現・医学部保健学科で3年間学び看護師の資格、その後、群馬県立福祉大学校(当時)で1年間学び保健師の資格を取得しました。ところが病棟での実習がどうも苦手で、これは看護師には向いていないと気づき、教員採用試験を受け、養護教諭、つまり保健室の先生として就職しました。大規模校で1人で1500人を管理しなければならないという状況の中で、3年目に第一子を妊娠、とにかく仕事がハードで流産の危険があり、続けることが難しく辞職しました。その後、医療系短大の保健室(非常勤)を経て、1999年、保健所での難病支援という仕事に出会いました。2004年に群馬県の難病相談支援センターの立ち上げが決まり、私に難病相談支援員としての声がかかり、今に至っています。

難病相談支援員として、相談者と接するときに特に気をつけてきたことは

当初から、いつ辞めるかをいつも考えていた私が、難病相談支援センター(以下、センター)で19年間勤務してこられたのは、ひとえに患者さんからもらう宝物のようなものに支えられたおかげです。与えられた仕事を、周りの人に支えられて過ごす毎日。大変なことがあっても、患者さんたちと一緒に研修会をしたり、お話をしたりすることで元気や勇気をも
らい仕事を続けてきたというのが正直な気持ちです。また、ある日、ある書物でこんな言葉を見つけました。「あなたの目の前にいる相談者は、あなたに足りないピースを、あなたに与えにきた」と。まさにその通りだなと思いました。患者さん一人ひとりにそれぞれの場面での大切なことを教えてもらっている。そんな感謝の気持ちをもって続けてきました。

長年、多くの方々のお話を聞く中で、すべての人が私に相談して良かったと思うわけではないということにも気づきました。センターに相談しても、あまり役に立たない、と気づくのも一つのサポート例だと思います。やはり家族でなければわからない、主治医に相談してみよう、患者団体に話を聞いてもらって気持ちが落ち着いたという答えが導き出される場合もあります。同時に、センターだからこその情報や知見があり、来て良かったと言う人もいます。どれがいいかではなく、語り手と聞き手の出会いが大切です。

また、相談員としての私の存在自体を、忘れてしまうことが良い場合もあります。たとえば、ある人が障害年金の申請で相談に来られました。申請では過去を振り返る必要があり、いつ、どこで受診し、どんな薬を飲んでいたか、その方の歴史を一緒にまとめていきます。私もカルテから記録を抽出するなど努力はします。それを書類にして、家族と一緒にさらにチェックする。家族と解決する時間の方が私との時間より長いわけです。その人は、家族とあんなに頑張ったから、障害年金を受給できたと後から言うのです。患者自身が家族とともに乗り切ったと思えること。支援者の存在を忘れられる支援も正解なのではと思っています。

厚生労働省の指定研究班で、センターのピアサポートに関する研究に従事したことについて教えてください

『難病相談支援マニュアル<br>西澤正豊、川尻洋美、湯川慶子 編著<br>社会保険出版社 2018 『難病相談支援マニュアル
西澤正豊、川尻洋美、湯川慶子 編著
社会保険出版社 2018
2014年から2019年にかけて、厚生労働省の指定研究班で、センターのピアサポートに関する研究に携わりました。まず全国のセンターにアンケートを実施し、ピアの相談員がいるか、研修会の実施など、ピアサポートの現状を調査しました。アンケート結果を基に、患者団体によるピアサポート研修プログラムを開発することになり、全国5カ所のセンターにモニター協力してもらい、研究者の方々にも参加していただき作成していきました。そうしてできあがった難病ピアサポーター養成研修プログラムの実践に、群馬県難病相談支援センターが全国に先駆け最初に取り組みました。その結果、難病ピアサポーター養成研修が当初は年1回か2回の実施だったのに、今では通年当たり前のように行われるようになり、意識としては定着してきたと思っています。

その事業をステップとして、2018年発行の『難病相談支援マニュアル』へとつながっていきました

研究班の協力者の方々が素晴らしい成果を上げてくださり、それらを活かし、全国のセンター支援員が着任したときに困らないように、マニュアルを作ろうということになりました。共著者の先生方に助けられながら、約2年間かけて『難病相談支援マニュアル』を製作し、全国のセンターに無料で配布しました。「これを参考にやっています」と職員から、また患者団体からは「テキストができてよかった」と反響が大きく、私としてはまだまだ完成度が高いとは思いませんが、とにかくたたき台がなければバージョンアップもできません。相談事例もていねいにまとめ、慣れていない相談員の受け答えに役立つようにと心がけました。

難病患者の就労支援にも力を入れておられます
また、今後の抱負について、教えてください

2023年度からは、国立保健医療科学院が主導する「アプリを併用した就労アセスメントの専門性向上のための研修の開発についての研究」の研究班で、研究分担者として難病患者の就労支援のための研修開発に携わっています。

難病患者に限らず障がい者全般にわたり、就労時のアセスメントが難しいという課題があります。それに対応するために、パソコンやスマートフォンでの専用アプリを開発し、たとえば「午前中は体調が悪い」「時短にしたい」、また「勤務後、家でぐったりとなった」などの状況を入力すれば、支援者がそれをチェックし、今後の勤務内容をどうしていくか検討できるようなアプリの開発を描いています。私は難病に関するいろいろな症状やアセスメントに必要な要素を抽出する係を受けもっています。

私は今年度で定年を迎えます。今後はどういう形になるかわかりませんが、ピアサポート相談員の方々を支える側、相談員の方の悩みや不安を一緒に解決していくようなポジションに就きたいと思っています。また、娘夫婦が愛知県で訪問診療専門のホームクリニックを開業しているので、私も参加して地域医療にも貢献していきたいと考えています。

川尻 洋美 さん プロフィール
2008年群馬大学大学院修了。小学校養護教諭、医療系短大の保健室、保健所の難病担当保健師として勤務後、2004年より現職。年間約400件の新規相談、約800件の継続相談に対応している。
2014~2019年まで、厚生労働省指定研究班の研究分担者として、難病相談支援センターの標準化や難病ピアサポートに関する研究に従事。2023年度より障害者政策総合研究事業(身体・知的・感覚器等障害分野)「アプリを併用した就労アセスメントの専門性向上のための研修の開発についての研究」班にて研究分担者として、就労支援アプリの開発の
ための研究に携わっている。
著書に『難病相談支援マニュアル』(編著・社会保険出版社)、『健康管理と職業生活の両立ワークブック(難病編)』※等。

※平成29年度厚生労働行政推進調査事業費補助金
(難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業))「難病患者の地域支援体制に関する研究」班