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「患者中心の医療プロジェクト講義」が実現 医療・福祉系学生に、患者講師が自ら語る

「患者中心の医療プロジェクト講義」が実現
医療・福祉系学生に、患者講師が自ら語る

『患者と作る医学の教科書』プロジェクトチーム主催による「患者中心の医療プロジェクト講義」が、2010年2月28日、慶応義塾大学医学部信濃町キャンパスにおいて開催されました。当日は、医学、看護、薬学、理学療法、社会福祉などの医学・福祉系学生を対象に、4人の患者講師が自らの医療経験を講義し、その後、学生と患者講師、プロジェクトチームメンバーが加わってグループワークを行いました。今回は、大学や目指す職種の枠を超えて学生が集まり、患者中心の医療について学んだ画期的な試みについてご紹介します。

「人間的側面を学ぶ場として」
最初に、プロジェクト講義の意義を確認

講義に先立ち、慶応大学の加藤眞三教授が、今回のプロジェクト講義の意義を述べました。 まず、『患者と作る医学の教科書』は、科学的で客観的な従来の教科書に比べて、個人の物語を取り上げており、人間的で主観的な点が特徴であることを述べました。

そして、医療はエビデンスや普遍性に裏付けられた「科学的側面」と、感覚や個別性、独自性などの「人間的側面」の両方があってこそ発展していくもので、その中で、双方のレベルを高め合い、お互いのバランスを取っていくことが求められると説明しました。

さらに、「人間的側面を学ぶ今日の講義では、参加者一人ひとりが敏感になって、患者さんの話を傾聴してください」と学生に語りかけ、次の4人の患者講師による講義に移りました。

学生たちに深い印象を与えた4人の患者講師の講義
患者が求めるのは「安心」

富樫 美佐子さん(あけぼの会)
まず、富樫さんは、乳がんの闘病生活と、その中での医療者との出会いについて語りました。そして、患者は「安心」を与えてくれる医師や看護師を求めていること、最近は患者自身が治療法の選択を迫られるので、とまどうことが多い点を訴えました。

最後に「再発がわかったときに、先輩患者さんに『がんと共存するしかない、人間、いつかは誰もが死ぬのだから』と言われて、真っ暗な闇の中から抜けることができた」と、同じ立場の患者や患者団体が患者にとって支えになることを訴えました。

病に負けない自分を諦めない

富田 真佐子さん
富田さんは、30年近くにわたってクローン病と闘い、イレウスの激痛、大手術後の苦しい日々、また10代で「難病」と告げられたショックや孤立感、ストーマの受容などの精神的な苦痛を、家族や友人の支えにより乗り越えてきたと述べました。そして、看護師に患者のつらさを知ってほしいと考え、現在は治療を継続しながら、看護学部の教授として忙しく充実した生活を送っていると述べ、「病に負けず、病とともに生きようと考えるようになった。病気のために何かを諦めることはあったが、自分を諦めることはなかった」と語りました。

患者と医療者との橋渡しをしたい

尾白 登紀子さん(日本IDDMネットワーク)
尾白さんは、劇症1型糖尿病などいくつかの闘病生活を経て、自らの体験を活かしたいと患者団体に加わりました。そこで患者仲間の「先生の指導に自分の経験を考えあわせて、管理すればいい」という言葉で、長年さまよってきた闇の中から世界が開けた思いがしたそうです。

現在は、医療の進展には患者の経験や知識が必要だと考え、積極的に患者と医療者や研究者との橋渡しをしていると述べ、「人生があって、その中の一つが病気と考えている。橋渡しの活動をすることが自分のプラスにもなっている」と語りました。

仲間に支えられ、活動に取り組む

大木 里美さん(中枢性尿崩症(CDI)の会)
大木さんは出産をきっかけに微熱や倦怠感、多飲、多尿、うつ状態など全身にさまざまな症状が出現し、20以上の病院を受診しましたが、「育児ノイローゼ」など心の病気と間違われたそうです。中枢性尿崩症と診断された後も、医療者の対応や、周囲の偏見と無理解に傷ついてきたと述べました。しかし患者団体に加入し、「そうそう、わかるよ」と悩みやつらさを分かち合える仲間の存在に助けられ前向きになれたということ、また今後も患者の立場から、医療者とのギャップや未承認薬問題などの課題に取り組みたいということを語りました。

プロジェクト講義を終えての学生たちの声
プロジェクト講義終了後の、学生たちのいくつかの声を紹介します。

・「患者さんの声、医師からの言葉、有意義な意見交換など多くの収穫があった」
・「患者さんの立場に立つということが今回の講義を通じて少しでも理解できたので、これを良い機会として、より深く考えていきたい」
・「病名や薬剤などの情報の向こうにいる患者さんのことを意識していきたい」
・「他の職種の学生と話し合い、よい刺激を受け、新たな向上心がわいた」
・「いろいろな職種を理解することでチーム医療が成り立ち、その先に患者を中心とした医療があると感じた」

この他にも、学んだことを今後に生かしたいという積極的な意見が目立ち、プロジェクト講義が学生たちの有意義な学びの場になったことがうかがえました。

プロジェクト講義の成果を次につなげるために
プロジェクト講義の成果や課題について、患者講師やプロジェクトチームのメンバーで、反省会として話し合いました。

プロジェクト講義の運営を担った酒巻教授
「多くの人たちがこのプロジェクトに参加して今日の講義を作ってくれた。教科書を作ることも重要だが、それを使ってどういう教育の場面を作るかが最も重要なので、今までと違う、意義ある成果があったと思う。さまざまな職種を目指す医療系の学生が交わりながら、患者さんの声を聞く場面を作っていくのが私たちの使命だと考えているので、参加した学生の意見を聞き、次に活かしていきたい。今回はタイミングが悪く医学部生の参加が少なかったので、もっと参加しやすい時期を選ぶことや、患者講師を増やしていくことを目指していきたい」

講義実現に向けて尽力した加藤教授
「グループワークは、患者さんの話を傾注して聞く、聞き出すというように、方向付けを明確にしておいた方がよかったかもしれない。反省点はあるが、この講義を通じて、患者さんの力をこれから医療の中に活かしていけば、医療崩壊と言われている状況を打開できるのではないかと、とても明るい気持ちになった」

プロジェクトチームの企画面を取りまとめる高畑教授
「今日のような講義がカリキュラムの中に位置づけられて、医療系の学生が現場に出る前に、実際に患者さんの話を聞くことができればよいと思う。興味を持った教員だけが取り上げるのではなく、カリキュラムに組み込み、全員が学べるようにしたい。今回の記録や感想をまとめて、ぜひ次につなげていきたい」

埼玉医科大学・看護学部で、すでに患者講師による講義を実施している松下教授
「理学療法学科の学生たちも、とても真摯で熱心なことに感動した。学部・学科の壁を越え、講義を広く受けられるようにしたい」

反省会のまとめとして、参加した学生たちから寄せられた感想文を整理し、内容を分析して、今後の新たな展開に向けて役立てることとなりました。