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コロナ禍の中で、難病の当事者を支える 指定難病受給者証の有効期限延長に向けての取り組み

コロナ禍の中で、難病の当事者を支える
指定難病受給者証の有効期限延長に向けての取り組み

一般社団法人<br>日本難病・疾病団体協議会(JPA)<br>代表理事 森 幸子 さん 一般社団法人
日本難病・疾病団体協議会(JPA)
代表理事 森 幸子 さん
新型コロナウイルス感染症の感染拡大は、病気や障がいのある人の生活にも大きな影響を与えています。(一社)日本難病・疾病団体協議会(JPA)では、コロナ禍に対応し、難病や慢性疾患の当事者の感染予防や療養生活を維持するために、厚生労働省にさまざまな要請を行うなど積極的な活動を行ってきました。その中心となったのが、指定難病受給者証※1の有効期限延長の要請です。そこで、この取り組みの経緯について、JPAの森幸子さんにお話を伺いました。

※1 指定難病受給者証:都道府県・指定都市に認定された場合に交付される特定医療費受給者証のこと。

コロナ禍への対応として、令和2年度の指定難病受給者証の有効期限が延長されました。この経緯についてJPAとしてどのような活動を行ったのかを教えてください

新型コロナウイルス感染症については、早い時期から基礎疾患がある人や免疫抑制剤を使っている人は重症化する可能性が高いと指摘されていたことから、JPAにも患者団体などから不安の声が寄せられていました。そこで、2月25日に、JPAとして、新型コロナウイルス感染症に対する正しい情報提供や、難病患者・長期慢性疾患患者などへの配慮を求める緊急要望書を厚生労働大臣に提出しました。

次いで3月26日には、「認定NPO法人難病のこども支援全国ネットワーク」とも連携して「指定難病の患者や小児慢性特定疾病の患者等の医療費助成の受給者証更新申請の有効期限延長」「人工呼吸器使用患者や、自己注射を行っている患者の衛生管理への配慮」「重症化や感染しやすいと考えられる患者へのマスクや消毒液等の確保」について要請を行いました。

その結果、4月30日には厚生労働省から受給者証更新申請の有効期限延長が発表されるなど、私たちの要望の多くは実現しました。

どうして指定難病受給者証の有効期限の延長が必要と考えたのですか

医療費助成の受給者証の有効期限は1年で、多くの場合9月に発行されます。そのために、例年5月頃から、患者は更新手続きに必要な受診、検査を受け、臨床調査個人票※2や医師意見書の依頼・入手等の各種手続きを行ってきました。しかし、コロナ禍の中で病院や市役所等に出かけることは大きな感染リスクとなります。また、更新手続きは医療者や行政にとってもかなりの労力を必要とします。コロナ禍で医療崩壊も危惧される中で、余計な負担をかけられないと思いました。そこで、東日本大震災や西日本豪雨の際に有効期限が3ヶ月延長されたことをふまえ、コロナ禍の拡大を考慮して有効期限を1年間延長してほしいと要望したのです。

※2 臨床調査個人票:都道府県・指定都市による難病指定医が作成する指定難病に関する診断書。

要請はスムーズに受け入れられましたか

指定難病だけでなく、すべての公費負担の医療費助成についても、同様に有効期限を延長することになったため、各部署間の調整に時間がかかったようです。たとえば、難病法では現状のままで有効期限の1年延長は可能でしたが、小児慢性特定疾病医療費助成制度の医療受給者証の有効期限を延長するためには、改正児童福祉法の省令改正が必要でした。

毎年、更新手続きを行うことには意味があるわけですから、有効期間を1年延長するためには、それだけの理由や裏付けが必要です。また実施主体となるのは都道府県ですから、厚生労働省だけでなく、幅広い関係者の協力が必要となります。厚生労働省難病対策課が中心となって各部署に働きかけて調整してくれたこと、さらに障がい者団体や各疾病団体など多くの当事者団体が要請を行ったことなど、多様な力が合わさって、有効期限の延長が実現したと感じています。結果的に要請から約1ヶ月半後に有効期限の延長が決定し、行政的には早い対応だったと思いますが、JPAには「いつ決まるのか」と患者団体から多くの問い合わせがありました。それだけ当事者にとっては切実な問題だったのだと思います。

取り組みの中で特に重視したのはどのような点ですか

コロナ禍の中で、まず社会全体のことを考えなくてはいけないということですね。例年、新年度が始まるとすぐに更新手続きの準備にとりかかる医療機関や自治体が多かったので、その前に「期限延長を検討している」という事務連絡を行い、効率的に進めてほしいということも要請しました。実際、医師からは「コロナ対応に追われる中で更新手続きをする必要がなくなったことはよかった」という声も聞かれました。

また、制度の間で不利益を被る当事者が生じないようにすることも重視しました。前年の所得が著しく低くなった場合や、重症度が変わった場合には、更新手続きを行った方が患者の自己負担額が減ることがあります。ですから、受給者証の記載事項等に変更が生じた場合は、変更申請を行うように案内することも要請しました。さらに、新規に手続きをする人や、軽症で手続きしていない人には、自治体からの通知が届いていないため、JPAの機関誌などを通じて、有効期限が延長されたことを伝えています。厚生労働省に対して要請をする際には、当事者へのアンケート結果など説得力のある資料も添付しました。国や行政を動かすためには、当事者の声を文書の形にまとめて確実に届けること、さらに、医療者や行政関係者の負担軽減にもつながるなど社会的にメリットがあることをきちんと訴求して理解してもらう必要があると感じました。

コロナ禍の収束にはまだ時間がかかりそうですが今後、どのような取り組みを考えていますか

感染予防のために電話受診やオンライン受診をしている人も多かったようです。しかし、適切な治療を受けるためには、やはり検査や診察は必要ですから、状況が落ち着いてきた地域では、医療機関を直接受診するように伝えていきたいと考えています。

また、就労について、一般の方よりも厳しい状況になっていますので、当事者への就労支援の取り組みも考えていきたいと思っています。さらに冬にはインフルエンザの感染流行も予想されていますので、今後も難病や慢性疾患のある人が、感染症にどのように対応していけばよいのか、どのようなサポートが必要なのか注視しながら活動していきたいと考えています。難病や慢性疾患の当事者だけでなく、医療者や行政関係者にも配慮し、国民の皆さんの理解を得ながら、より良い社会の形を目指して取り組んでいきたいと感じています。

まねきねこの目

今回の取り組みは、当事者の声を確実に届けるとともに、医療者や行政関係者の負担などにも配慮した合理的な要請であったことから、速やかな実現につながったと考えられます。コロナ禍の中で生じる新たな課題について、私たちもヘルスケア関連団体の皆さんとともに考えていきたいと思います。