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居心地を大切にした建築・環境のもとで
医療的知識のある友人のようなヒューマンサポートを行う
がんに影響を受けた人が自分を取り戻す場所「マギーズ東京」

居心地を大切にした建築・環境のもとで
医療的知識のある友人のようなヒューマンサポートを行う

がんに影響を受けた人が自分を取り戻す場所「マギーズ東京」

認定NPO法人 マギーズ東京<br>共同代表理事・センター長<br>秋山 正子 さん 認定NPO法人 マギーズ東京
共同代表理事・センター長
秋山 正子 さん
日本人の2人に1人ががんに罹患する時代。がん医療の進展に伴い、社会復帰するがん経験者も増えています。そうした状況の中で誕生した「マギーズ東京」は、がん経験者をはじめ家族、友人など、がんの影響を受ける人がその不安や悩みをなんでも相談できる場所です。英国で1996年からがん支援の実績がある「マギーズキャンサーケアリングセンター(以下マギーズセンター)」の日本で初めてのセンターとして、2016年に東京都江東区豊洲に開設されました。7年間で約41000人が利用し、医療者や支援者も見学に訪れるなど各方面から注目される「マギーズ東京」を訪ね、認定NPO法人マギーズ東京 共同代表理事・センター長の秋山正子さんにお話を聞きました。

英国マギーズセンターを知り、日本での設立を志す

英国マギーズセンターの基準に沿った<br>自然が感じられる環境と、<br>木を多用した建築のマギーズ東京<br>(東京都江東区) 英国マギーズセンターの基準に沿った
自然が感じられる環境と、
木を多用した建築のマギーズ東京
(東京都江東区)
私は、看護大学を卒業後、病院での臨床や看護教育に携わってきましたが、家族のがん療養経験をきっかけに、病院ではなく生活の場で療養を支えたいと1992年から東京都新宿区で訪問看護を始めました。

がん医療が進歩するにつれて、治療の中心が入院から外来へと移行し、がんと共存しながら社会復帰をして、長く暮らす人も増えてきました。2007年にがん対策基本法が施行され、がん診療連携拠点病院に指定された病院には多くの患者が集中しました。そのため慌ただしい外来診療の中で、治療についての疑問や生活の悩みを医師に相談できない、病院内のがん相談支援センターにも辿りつけない人が増えてきたのです。今は、医療者や病院の対応も変わってきたと思いますが、当時、どこにも相談できないままに最期を迎える患者さんに訪問看護師として多くの出会いがありました。そのときに、もっと前から相談をできる場が必要ではないかと思い悩んでおりました。2008年に国際がん看護セミナーで、当時英国エジンバラのマギーズセンター長だったアンドリュー・アンダーソン看護師と出会いました。来訪者が自分自身で考え、自分の力を取り戻せるように支援するだけではなく、相談する場の建築・環境も心を落ち着けて話しやすいようデザインされ、整えられているマギーズセンターを知って感銘を受けました。日本においても、今すぐにでも必要とされる「場」であり「支援」であると思い、3ヶ月後、仲間と一緒に英国のマギーズセンターを見学。その1年後にCEOであるローラ・リーさんの招聘講演を実現させました。

その後、2011年にマギーズセンターをコンセプトにした「暮らしの保健室」を新宿区に開設しました。並行して「日本にもマギーズセンターを」と少しずつ仲間を増やす運動を続ける中で、2014年に現・共同代表の鈴木美穂さんと出会い、翌年にはNPO法人を設立しました。彼女はがん経験者で、若い世代のがん患者団体などの活動に取り組む中でマギーズセンターを知り、私と同じように日本での開設を目指していたのです。

思い悩む人が自分を取り戻す場所として

大きなキッチンテーブルやソファがあり、<br>思い思いの時間が過ごせる室内 大きなキッチンテーブルやソファがあり、
思い思いの時間が過ごせる室内
2016年、多くの方の協力を得て東京都江東区豊洲にマギーズ東京をオープンすることができました。都心にありながら、広々とした空とゆったり流れる運河が見える場所にあり、英国マギーズセンターの基準に沿った建築・環境を実現させました。多くの人のチャリティ(寄付や協力)で運営しています。

相談に対応するのは、マギーズセンターのヒューマンサポートを学んだ「キャンサーサポートスペシャリスト(CSS)」の看護師や臨床心理士、公認心理師、保健師などで、医療的知識のある友人のような立場で話を聞き、一緒に考えたり、必要な情報や制度を探したりするお手伝いをします。江東区と品川区からの委託で月2回は夜間の相談窓口も開いています。

今まで見学者も含めて4万1000人近くの方が利用されました。相談の内容は、治療の不安や医療者との関係など医療に関するもの、家族関係、仕事の悩み、経済的なことなど多岐にわたります。相談だけでなく、さまざまなグループプログラムも開催し、また本を読んだりお茶を飲んだり、思い思いの時間を過ごす方もいます。東京以外にも同様の施設をつくりたいという方も多く、石川県金沢市の「元ちゃんハウス」、静岡県富士市の「幸ハウス富士(NPO法人幸ハウス)」、京都市の「NPO法人ともいき京都」などマギーズセンターを参考にした取り組みも広がっています。「暮らしの保健室」も全国に展開していますので、遠方からの相談に対して、近いところを紹介することもあります。相談支援にかかわる方などを対象とした「マギーズ流サポート研修」も行い、研修を受けた専門職が病院などに戻り、マギーズでのサポートを取り入れて、がん患者さんの相談支援のあり方がより良い方向に変わることも期待しています。

マギーズ東京が行っているのは、病院でもなく自宅でもない、居場所づくり。ゆっくりと落ち着いて考えられる環境を整え、必要な情報は提供するけれど、最終的には自分で選ぶスタイルの相談支援であり、私たちは多くの方が、自分の力を取り戻す過程を目の当たりにしてきました。寄付を集めたり、さまざまな機関や行政に協力を働きかけたり、事業継続は楽な道ではありませんが、これからも、がんに影響を受けた人が自分の力で歩み始めることのできる居場所として「マギーズ東京」を守り続けたいと考えています。

 
 
秋山 正子さん プロフィール

認定NPO法人マギーズ東京共同代表理事・センター長、(株)ケアーズ代表取締役、白十字訪問看護ステーション統括所長、NPO法人白十字在宅ボランティアの会理事長、暮らしの保健室室長(創設者)、第22期東京都社会福祉審議会委員、順天堂医療看護学研究科大学院非常勤講師。第47回フローレンスナイチンゲール記章受章、2023年度日本対がん協会「朝日がん大賞」受賞。